台風が過ぎた後の駅の混雑状況は凄まじい状況でした。鉄道会社が当初発表していた予定通りに運行開始しなかったことで鉄道会社を批判する意見もあるようですが、そもそも台風や地震、火災などの災害が発生した場合、その被害は事前に把握できるわけではありません。混雑の原因はむしろ乗客側、正確に言えば、乗客の所属する企業等にあると考えます。報道等を見ると、
「こんな状況の中で出勤させるなんて、ブラック企業だ」
という意見もあったようですが、実際は従業員を強制的に出社させたわけではなく、
「ノープラン」
であったため、従業員は通常通りに出社せざるを得なかった、というのが実状だと考えられます。

台風15号の経緯から見た出社判断基準の必要性

今回の台風15号の経緯を見ると、鉄道会社が計画運休を発表したのは前日の日曜日昼頃でした。発表が遅いという声もあるようですが、台風の経路予想は現在でも前日くらいにならないと絞り込みができないようです。問題は直近の最終営業日である金曜日夕方の時点では、台風の上陸地点予測は東海から関東の広い範囲となっており、関東を直撃「するかもしれない」状況でした。そのため、一部の企業を除いては金曜日の終業時間終了時点で特にアナウンスや対応方針を示さないままで月曜日の朝を迎えたのではないでしょうか。
事前アナウンスがされなかった企業の中には、「当日の状況を見て判断しよう」と考えていたかもしれません。しかし、月曜日朝の時点で「状況を見て判断」すべきマネジメントも出社することが難しく、企業としての判断を決定することも、周知することも難しい状況だったと推測されます。その場合、従業員は個々の判断で出社すべきかどうかを判断せざるを得ず、休暇取得や遅れて出勤することを上長に承認してもらうことも困難だったため、結果として、就業規則等の日常のルールに則って行動した結果、月曜日朝の大混雑につながったと考えられます。

こうした災害の場合、出社するかどうかを社員の判断に任せると、さらなる混乱を引き起こす可能性があります。また、電車の運行状況にイライラし、ヘトヘトになって出社した従業員に日常通りのパフォーマンスを期待することは困難です。こうした事態を避けるためには、業務継続計画(BCP)の一環として、自然災害等に伴う交通機関や道路状況の状況に応じた、出社可否の判断基準を事前に作成しておくことが必要です。また、予見される災害等に対して、想定される事態対応した行動方針を検討の上、従業員に周知すること、必要に応じて取引先等とも調整することが必要です。

BCPが必要とされる事象の発生時に従業員がいるとは限らない

さて、現在BCPが策定されている企業はどのくらいになるでしょうか。(株)帝国データバンクが発表した調査によると、BCP策定済み企業は企業全体の約15%のまま推移しており、依然としてBCPの策定が進んでいない状況となっております。従業員規模が1000名以上の企業では策定率は50%を超えておりますが、従業員数が少なくなるにつれ、BCP策定企業の割合は減少しています。

BCP策定状況

ただし、策定されているBCPは、従業員が就業中であることを前提としているケースが多数だと考えられます。もちろん、スタート地点としてはそれでいいのですが、就業中を想定したひな型を策定した後、災害の種類や就業状況に応じて拡張をしていくべきです。しかし、これまでの経験上、基本形を策定して満足する企業も散見されます。
単純に週休2日制、就業時間8時間と考えた場合、365日×24時間で考えた場合の就業中時間の割合は25%にも満たない状況であり、祝日や年末年始休暇等を考えると、その割合はもっと減ります。中には、
「弊社は残業が多いから」
「休日出勤も結構している」
と主張する企業もありますが(それはそれで問題ですが)、残業時間や休日出勤の際に社内に在席している方のほとんどは一般の従業員であって、状況を判断し、指示を出すマネジメントでないことがほとんどです。この場合、社内に指揮系統が存在しないという意味で、就業中を想定したBCPをそのまま適用できないことになります。そして、この非就業時間の中に通勤時間も含まれます。従業員の安全を考えると、そもそも危険のある状況の中で出社させることの是非も問われます。そのため、BCPの一環として出社判断基準を策定することは重要なのです。

就業時間の割合

出社判断基準の策定

就業時間外に災害が発生した場合に備えて出社判断基準を策定すべきですが、その際の判断基準として参考にすべきなのが以下の情報です。
・警戒レベル情報
・防災気象情報
・鉄道運⾏情報(運行予定も含む)

災害等に関する警戒レベル情報と防災気象情報との関連性は下記の図の通りです。地域や気象状況にも依りますが、警戒レベル3以上については避難を前提とした活動を求められるため、自宅等にいる場合は出社を控えるべきです。

警戒レベルと気象情報等

近年、鉄道事業者は台風の接近等、大規模災害が予見される場合には計画運休を行うようになっています。特に首都圏等の都市部での従業員は出勤手段として鉄道を用いることが多いので、鉄道が運休するとそもそも出社することが難しいことに留意する必要があります。

一方、地方居住者は出社する際に自動車や自転車等の、自分で動ける移動手段を利用することが多いため、自治体の発令する避難情報を参考にするほか、道路状況に関する情報も収集する必要があります。

企業によってはリアルタイムで協議し、連絡することが可能な安否確認システムを導入していますが、そのようなシステムを導入されていない企業や、今回の千葉県の様な大規模停電により通信が困難になる場合も想定されるので、出社判断基準等、災害時の行動基準を取り纏めて社内に周知することが必要だと考えます。

その他考慮事項

このような災害等が発生しても、出社することが求められる企業や部門もあります。例えば行政機関、電気やガスなどのライフライン関連企業、医療機関、等の企業や、様々なメンテナンスを行う部署、等が考えられます。こうした企業は予見される状況に応じて、まだ安全なうちに出社させる、或いは事業所の近隣で宿泊させる、等の対応が必要です。事業拠点が広い範囲に存在する場合は、被災が予想される範囲外の拠点に一時移転させることも必要かもしれません。こうした準備は被災状況を見て、という訳にはいかないので、事前に計画を整備の上、マネジメントの判断によりすぐに対応できる体制にする必要があります。

就業時間外の従業員に対する連絡について、近年はプライバシーの関係から社内連絡網等が作成しにくい状況となっております。また、企業貸与のモバイル端末があっても、在宅時に手元に置いていなかったり、電源を切っていたりする従業員も存在します。少なくとも、指示を出すべきマネジメントから従業員に一方通行で指示が届くよう、何らかの連絡手段を整備する必要があります。また、今回の千葉県の状況の様に停電が長期間続く場合の考慮も必要になります。

最近注目されているテレワークを導入することで、在宅勤務による業務実施を期待することもできます。しかし、企業によっては在宅勤務を行う際に事前申請を行う、等の手続きが必要とされる場合もあり、そのような企業はテレワークの効果を享受できません。単純に交通機関の問題で出社できないケースの場合はテレワークできるよう、社内のルール作りを行う必要があると考えます。

また、せっかく社内のルールを整備しても、それを守らない現場のマネジメントの存在も課題の一つです。従業員の安全を守り、かつ疲弊しないようにするようなマネジメントが求められていることをマネジメント対象の研修等でしっかりと認識させることが必要です。

いずれにしろ、こうした危機的な状況が発生した場合、所属する従業員に余計な判断をさせることなく、安全かつ適切な行動ができるよう、あらかじめ社内のルールを整備することが必要であると考えます。

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