クラウド化を渋るIT企業

先日、とあるクライアントとの打合せでのこと。これまでオンプレミスで運用していた社内システムを、サーバー機の保守期限切れのタイミングでクラウド化するという、最近よくある話です。しかし、思わぬところから反対意見が出てきました。それは、当該システムの開発/保守を行っているIT業者からです。その理由を聞いたところ、一瞬言葉を失ってしまいました。

「社外のクラウド環境に移設するとネットワークを経由するため、応答速度が悪くなります」

確かにADSL等のメタルの回線で接続していた時代はそうでしたが、今は光回線で接続される時代なので、疑問をぶつけると今度は、

「社外にサーバー機を置くと、セキュリティ上の問題があります」

当時のクライアントのサーバー機は倉庫部屋の片隅に置かれており、施錠もしておらず、温度管理もしていないので、セキュリティや可用性の強化もクラウド化の目的のひとつです、という説明をすると、最終的にこう提案をされました。

「それでは、弊社のデータセンターに設置するのは如何でしょうか」

いやいや、それではネットワークのパフォーマンスや社外設置によるセキュリティの話は何処に行ってしまったの?というように、その後も不毛な会話が続きました。

IT業者が新技術導入の抵抗勢力になる理由

最近、このように新しい、かつ一般に普及されつつある技術やアーキテクチャの採用を渋る、あるいは、愚にもつかない理由で反対するIT業者が増えてきている感があります。上記で紹介した話はほんの一例であり、ユーザー企業がチャレンジしたくてもIT業者から対応が難しいので、と言われたり、莫大な改修コストの見積を提示されたりしてプランが進まない、という話もお聞きすることがあります。これが新しい事業、新しい仕組みでの取り組みであれば新規のIT業者を見つけてくればいいのですが、既存のシステムやIT環境の延長、ということになると、既存のIT業者を動かさないと前に進むことが難しくなります。

こうしたIT業者は経験上、以下の様な特性を持つ傾向にあると感じています。

・長期間にわたって同じシステムを担当
・システム内部の作りを理解している担当者が皆無で、文書も不十分
・10年前、20年前に言われていた、現在では解消されている事を未だに主張

こうしたIT業者が抵抗勢力となるのは、以下の理由が考えられます。

(1)情報システムが新しい技術やアーキテクチャに対応できない
長期間にわたって改修を繰り返し、一度も再構築を行ったことのない情報システムは、内部の技術やアーキテクチャが最初に構築された時代から全く変わっていません。そのため、新しい技術と連携したり、新しいアーキテクチャを組み込んだりしようとすると無理が生じてしまうことが多々あります。

(2)担当者が新しい技術やアーキテクチャに対応できない
情報システムを陳腐化しないためには、情報システムに対して定期的に延命化のための改修や再構築を行う必要がありますが、同じシステムを継続的に担当してきた技術者はそのことに気付くことは難しいです。さらに、日常の保守作業が多数発生している場合、担当者がどのような新技術やアーキテクチャに対応すべきか、考える余裕もありません。結果として、担当者自身も古い時代の技術やアーキテクチャに囚われたままとなっているケースが散見されます。

(3)新技術の採用による、IT業者の売り上げ減少の可能性
冒頭の例の様にオンプレミスからクラウドへの移行が行われると、サーバー機やOS、DBMS等に関してはIT業者から購入する必要がなくなります。つまり、定期的に行われる機器更改やバージョンアップによる売上が見込めなくなることに他なりません。また、システム再構築という話になると、契約自体失うことにもつながります。そのため、ITの有識者ならすぐに分かるような、不合理で時代遅れな言い訳をして、何とか自分たちの仕事を確保しようと必死になっているように見えるのです。

IT業者が抵抗勢力になると、自社も時代遅れに!

上記に挙げた理由は、すべてIT業者側の都合です。本来であれば、ビジネス環境や技術の変化に合わせて提供する製品やサービスを再構成することで継続的なお付き合いができるよう、IT業者が努力すべきなのですが、既存の枠組みを維持することに執心するIT業者が存在するのも実状です。こうしたIT業者の存在は淘汰されるべきなのですが、問題は、こうした進化しないIT業者に委託する企業も、時代遅れの技術やアーキテクチャから脱することができないことにあります。

一昔前であれば社内の情報システムは事業所内だけで使えれば十分だったのですが、今や社外から、様々なデバイスでシステムが利用できないとビジネスのスピードについていけない時代です。また、他の企業ともリアルタイムでのデータ交換を行って、自動で、迅速に取引を行える時代です。抵抗勢力となったIT企業に依存したままだと、取引先からも敬遠され、自社も先細りになる恐れがあるのです。

タイトルではこうしたIT企業を分かり易くするために「ガラパゴス化」という比喩を用いておりますが、実は少々異なります。ガラパゴス諸島の生物であれ、昔の携帯電話であれ、独自の進化を遂げてきたという事実があります。よって、時代に見合った技術やアーキテクチャに対応できない(しない)IT企業は、シーラカンスやオウムガイの様な「生きた化石」と表現した方が正しいと考えられます。ビジネスでの世界でも同様、「生きた化石」の様なIT企業に囚われることで、自分たちも進化が止まってしまう事態に陥らない様、努めることが必要だと考えます。

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