作成日:2015/2/17

先回、営業秘密管理について簡単に取り纏めましたが、3要件の一つである秘密管理性について問い合わせをよく受けます。
今回は営業秘密の秘密管理性について、先回と同様に改訂された営業秘密管理指針の内容に沿って確認します。

営業秘密の要件としての秘密管理性(再考)

まず、営業秘密の要件の一つとしての秘密管理性について、営業秘密管理指針に「趣旨」として記載されている内容を再確認します。

「秘密管理性要件の趣旨は、企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が従業員等に対して明確化されることによって、従業員等の予見可能性、ひいては、経済活動の安定性を確保することにある。」
(「営業秘密管理指針(平成27年1月全部改訂版)」P.3より抜粋)

そもそも営業秘密は以下の特性があります。
・営業秘密に含まれる情報自体は無形であり、その保有形態や管理形態も様々
・特許権等のように公示を前提とできない
そのため、従業員等が営業秘密である情報をそうとは知らずに取り扱った結果、誤って外部に流出した場合に当該従業員に不測の嫌疑がかけられてしまう可能性があります。よって、企業が秘密として管理しようとする対象を明確にすることを秘密管理性としています。
一方で、秘密管理性という文言から、営業秘密とする情報に対して相当高度な秘密管理を行うことだとイメージしてしまいがちです。もちろん、営業秘密として指定する情報は企業として重要なので相応の管理措置は必要ですが、営業秘密の要件としては以下の理由から妥当ではないと考えられています。
・営業秘密が競争力の源泉となる企業に対して、「鉄壁の」秘密管理を求めることは非現実的であるため
・現実の事業活動では、営業秘密は保有する企業の内外で組織的に共有され活用されることでその効用を発揮するため
・下請企業に関する情報や個人情報、等の営業秘密の漏えいに関しては、被害者は営業秘密保有企業に留まらない可能性があるため
つまり、営業秘密については社内の秘密情報として管理する必要はありますが、その内容や用途によって管理内容が変わることから、要件としては妥当でないという考えとなっています。

秘密管理措置として必要とされるレベル

先に述べたように営業秘密における秘密管理性とは、企業が秘密として管理しようとする対象を明確にすることです。それには、以下の条件を満たす必要があります。
・営業秘密を保有する企業の秘密管理意思が従業員に明確に示されること
・企業の秘密管理意思に対する従業員の認識可能性が確保されること
そしてこの2条件を実現するのが秘密管理措置となります。秘密管理措置は、以下の要素で構成されます。
・対象となる営業秘密が一般情報から合理的に区分されていること
・対象となる情報について営業秘密であることを明らかにする措置
合理的に区分されていることとは、個々の情報(用紙やファイル)や一覧の項目レベルで営業秘密と一般情報が区分されている旨、表示等されていることを求めるものではなく、企業内で日常管理され使用される媒体のレベルで、営業秘密を含む情報(営業秘密のみ、または一般情報との混在)なのか、一般情報のみで構成されているのかが判別できれば良いとされています。
営業秘密であることを明らかにする措置とは、従業員が一般情報とは取扱いが異なるべき秘密の情報であるという規範意識が生じるレベルで見分けられるレベルが求められます。例えば、媒体の選択や媒体への表示、媒体に接触する者の限定、営業秘密たる情報の種類や類型のリスト化、等が考えられます。
秘密管理措置の内容や程度は、企業の規模、業態、従業員の職務、情報の性質、その他の事情によって異なってきます。

秘密管理措置の例

最後に秘密管理措置の例について、媒体等の区分ごとに典型的な措置について紹介します。なお、ここで紹介する内容に加えて、情報漏えい対策として有効な措置を適用することが必要であることに留意ください。
①紙媒体の場合
典型的な例として、文書に「マル秘」などの秘密だと認識できる文字や記号の表示が考えられます。また、個別の文書やファイルに秘密表示をする代わりに、施錠可能なキャビネット等に保管する方法もあります。

②電子媒体の場合
基本的には紙媒体と考え方は同様であり、記録媒体への秘密表示、電子ファイルやフォルダに秘密表示を含める名称、電子ファイルの閲覧時における秘密表示が考えられます。電子媒体に特有の措置として、電子ファイルやフォルダに対するパスワードやアクセス権の設定が考えられます。

③物件に営業秘密が化体している場合
物件に営業秘密情報が化体している場合とは、製造機械や金型、高機能微生物、新製品の試作品などが例として挙げられます。この場合、対象物そのものに対する秘密表示の貼付や施錠保管が適さないこともあり得ます。その場合の措置としては、室の扉に「関係者以外立入禁止」等の張り紙を貼る、領域内の部外者立入を禁止するための警備員の配置、写真撮影禁止の表示、該当物件を列挙した営業秘密リストを業務上接触しうる従業員内で閲覧・共有化、等の措置が考えられます。

④媒体が利用されない場合
従業員が体得した技能等、無形のノウハウや、従業員が職務上記憶した情報については、原則として、具体的に文書等に記載すること等によってその内容を紙その他の媒体に可視化することが必要となります。
なお、転職した従業員が体得したスキルやノウハウについては、信義則上の義務に著しく反するような場合に限り、民事上及び刑事上の措置の対象となるとされています。その判断については個々の事情で個別に判断せざるを得ないことに留意ください。もちろん、転職時に前職の営業秘密を含む文書や電子データを持ち込んだ場合にはその限りではありません。

営業秘密を企業内外で共有する場合の秘密管理性

営業秘密を企業内の複数拠点(支店や営業所、等)で共有する場合、秘密管理性の有無は法人全体ではなく、営業秘密情報を管理する独立した単位(管理単位)ごとに判断されます。つまり、営業秘密を保有するそれぞれの箇所で状況に応じた秘密管理措置が講じられる必要があります。
同様に自社の営業秘密を他社(子会社、関連会社、取引先、業務委託先、フランチャイジー、等)と共有する場合には、秘密管理性の有無は法人ごとに判断されます。自社の営業秘密が他法人で不正利用されている場合、当該他法人に対して差止請求等を行うためには、自社の秘密管理意思が明確に示されている必要があります。一般的には、営業秘密を特定した秘密保持契約(NDA)を締結することで、自社の秘密管理意思を明らかにすることができます。

最後に

以上、営業秘密の秘密管理性について確認しましたが、自社の営業秘密に対して法的庇護を受けるためには必要とされるものです。前回も申しあげましたが、制度上は自社の営業秘密が他社で不正に開示され使用された場合の対応となるので、自社の営業秘密は、最終的には自社で守らなければなりません。秘密管理性はあくまでも「この情報は営業秘密です」と示すものであり、これに追加して自社の状況に見合った情報漏えい対策が必要となることに留意ください。

上記内容に関するご相談やお問い合わせについては、「お問い合せ」のページからご連絡ください。

デルタエッジコンサルタントでは、顧客情報や技術情報、等の「営業秘密」に関して、
・不正競争防止法の庇護を受けるための「営業秘密」としての管理
・漏えいを防止するためのセキュリティ管理
を支援するコンサルティングサービスを提供しています。詳細はこちらをご覧ください。
==>「コンサルティングサービス-リスク管理」のページ

興味や関心がございましたら、ぜひご連絡ください。

コンサルティングサービス-リスク管理
お問い合わせ