作成日:2014/12/18

カップ焼きそば「ペヤングソースやきそば」異物(虫)が混入していた問題で、製造元の「まるか食品」(群馬県伊勢崎市)は全商品の生産販売を当面休止すると発表しました。事態収拾のためとはいえ、「食の安全」への対応としては非常にダメージの大きいものとなりました。また、この事件の発端が一般人のSNSへの投稿であることも特徴的です。
現在、まるか食品のサイトは2014/12/11付けの謝罪文のみが閲覧可能のため、情報が報道機関の内容に偏ってしまう可能性もありますが、まるか食品はなぜこのような状況となったのか、確認してみます。

 

これまでの経緯

カップ焼きそば異物混入の問題について、その経緯をまとめてみました。
(SNS記載内容、報道機関各社の報道内容をもとにデルタエッジコンサルタントで取り纏め)

日時
概要
2014/12/2 22:00頃異物混入を発見
2014/12/3 08:00頃保健所に連絡
2014/12/3 09:00頃まるか食品に連絡
(この時点で保健所からまるか食品に連絡があった模様)
2014/12/3 10:00頃保健所担当者が被害者宅に訪問
2014/12/3 11:00頃まるか食品担当者が被害者宅に訪問

・調査結果が出るまでSNS投稿内容の消去を依頼され、削除
・被害者が保有する商品の買取り
(被害者のまるか食品に対する心証は良くない様)

2014/12/3 PMニュースサイト等で報道が始まる
2014/12/3 夜間伊勢崎保健所、まるか食品本社工場を立ち入り調査し、「製造過程での混入の可能性を完全に否定できない」として自主回収を指導
2014/12/4 PMまるか食品のホームページが一時閲覧不能に(アクセス集中)
まるか食品担当者が被害者宅に訪問
・翌日の新聞にお詫びと回収の知らせを掲載予定
(まるか食品から誠意ある謝罪を受け、納得した模様、慰謝料等の請求はなし)
2014/12/4 PMまるか食品、自主回収対象2商品を発表、回収受付を開始
・自主回収対象商品は11月10日に本社工場で製造され、賞味期限が「2015年5月9日」と表示されている商品で、約5万個
2014/12/11外部専門機関の調査完了
本社工場の製品全てを回収決定、製造再開までに数か月かかる見込み。
2014/12/12リコール保険未加入が判明。危機管理に対して非難の声が上がる。
まるか食品、従業員解雇を行わないことを発表

 

今回の事件のポイント

まるか食品の対応ですが、当初は被害者の心証を害したものの、最終的には被害者は納得して謝罪を受け入れました。通常であればこの段階で事件は納まったのではないでしょうか。しかしながら、現状は全製品回収と全工場の生産停止・改修という事態にまで追い込まれてしまい、企業存亡の危機に立たされています。今回の事件で特徴的なポイントは以下の3点だと考えます。

  • 被害者とまるか食品との対応状況をSNSに投稿
  • 12月4日の自主回収発表
  • 12月11日の全製品回収発表

被害者とまるか食品の対応状況をSNSに投稿
今回の事件では、被害者である一般人の方がまるか食品や保健所とのやり取りをSNSに投稿をしていました。最初の投稿に掲載された異物混入の写真のインパクトが強かったこと、また、まるか食品の担当者の言動や投稿削除の依頼に対して、ネット上の閲覧者からは批判の声が起きたようです。つまり、苦情に対する個別対応からネット上のレピュテーション対応へとエスカレーションしてしまいました。
また、12月3日時点での報道関係の取材に対してまるか食品の担当者は「製造過程で混入した可能性は考えられない」と回答していたようです。まだ事象が顕在化し、調査が始まったばかりであろうタイミングで、自社の責任を否定するような言動は後々自分の首を絞める結果にもなりません。事実、当日夜の伊勢崎保健所の立入調査で「製造過程での混入の可能性を完全に否定できない」として自主回収するよう指導されていました。

12月4日の自主回収発表
伊勢崎保健所の指導を受けて、まるか食品は被害者に対して謝罪するとともに、製品の自主回収を発表しました。被害者は謝罪を受け入れ、直接的な苦情対応としては一旦収束しました。ただ、当該事案は既にネット上で拡散され、かつ保健所の指導を受けたため、社会的信用を維持するために何らかのアクションが必要となります。それが12月4日付の自主回収発表です。12月4日付のまるか食品のプレスリリースは現在確認できないので、報道内容を確認し、概ね以下の内容であったと考えられます。

  • 対象商品:ペヤングハーフ&ハーフ激辛やきそば(異物混入のあった製品)、ペヤングハーフ&ハーフカレーやきそば
  • 賞味期限:2015年5月9日(異物混入のあった製品と同一)
  • 製造日:2014年11月10日(異物混入のあった製品と同一)
  • 対象個数:約5万食

まるか食品のプレスリリースでは
「通常の製造工程上、このような混入は考えられないことではございますが、食品の安心、安全の観点から万全を期すため」
という説明の後に、指摘のあった製品と同一日に同一製造ラインで生産された製品に絞り込んでの回収内容となっています。
この時点でもまるか食品は「このような混入は考えられない」として、保健所の指導があったにもかかわらず、自社に責任がないことを主張し続けていますが、その具体的な根拠は記載されていなかったようです。また、回収商品の範囲指定についても、報道されている内容からは異なる製造日や異なる製造ラインだとなぜ問題ないのか、具体的な説明がされていないようでした。つまり、プレスリリースの「食品の安心、安全の観点」は消費者目線ではなく、製造会社(まるか食品)の目線で、「これくらいの範囲でいいのでは」という思いに基づいているように感じられます。

12月11日の全製品回収発表
12月4日のプレスリリース後ですがその後、この事件は小康状態でした。報道機関のニュースもなく、SNS(ツイッター)での掲載も減少しており(下図参照)、このまま事態は沈静化していくかに見えました。
ツイッターでの拡散状況
しかし、12月11日に事態は急転します。まるか食品はプレスリリースにて、
「外部委託機関からの分析結果報告をもとに、社内で検証を行いましたが、弊社製造過程での混入の可能性は否定できませんでした。」
と、自社の責任の可能性について示唆した上で、

  • 全商品の回収(12/4に提示した自主回収製品以外は希望者)
  • 全工場の生産自粛
  • 全商品の販売中止

を案内しております。また、報道ではこれに追加して、

  • 全工場の設備改修(再開まで数か月)

を行うとしています。
このプレスリリースについて様々な意見があり、中には「過剰対応では」と意見も見受けられます。
ここからは具体的な説明がないため推測になるのですが、「外部委託機関からの分析結果報告」と「社内で検証」の結果、まるか食品の製造設備に何らかの大きな(致命的な?)問題があったのではないかと考えられます。まるか食品は生産設備として本社工場と赤堀工場の2施設を有しております(どちらも群馬県伊勢崎市に存在)。これまでは異物混入のあった製品を製造した本社工場のみが注目されていましたが、新たに赤堀工場も対象として追加されています。まるか食品はペヤングブランドに特化した製品のみを製造していることから、両工場の基本的な製造工程や設備はほぼ同一と考えられます。よって、両工場に共通的な大きな問題があり、かつ今後も同様の事象が発生する可能性を考えての対処ではないかと推測されます。そうでなければ、数か月の生産停止によってその間の収益がほぼゼロになり、かつ生産再開後も元の売上を回復できる保証もない状況に陥るような経営判断を選択するとは考えにくいです。

 

もう一つの異物混入事件-日清食品冷凍

皆さんもご存じの通り、ほぼ同時期に日清食品冷凍の冷凍パスタに異物(虫)が混入された事件が報道されました。こちらの事件はタイミング的に注目されたものの、粛々と対処されているように見受けられます。
日清食品冷凍の2014年12月10日付プレスリリースを確認すると、以下の内容が記載されております。

  • 顕在化した事象:冷凍パスタ商品(商品名、賞味期限、製造日を明記)に虫(ゴキブリと推定)の一部分が混入
  • 調査結果:具材に使用している野菜から混入した可能性が高いものと判断
  • 回収対象商品:虫の混入が確認された製造日+混入の可能性が否定できない製品(商品名と賞味期限を明記)

つまり、混入された異物は製造ラインではなく、製造過程で使用された原料に含まれていたことが調査結果から判明したため、原材料や商品がロット管理されていれば、該当する商品が特定でき、消費者の安心につながったと考えられます。

まるか食品と日清食品冷凍の比較イメージ

 

最後に

まるか食品の最終的な対応については先にも述べたとおり、その賛否が議論されている状況です。ただ、現時点で異物混入の原因が究明されていない(または、発表されていない)ことから、消費者目線での安全という観点から考えると、現在の製造施設で製造された商品のすべてに異物混入の可能性が残ることから、今回の製造自粛と工場改修という経営判断も致し方ないと考えられます。数か月後に製造販売が再開される際には、原因の特定とこれに対する改善策の内容、及び有効性の評価等を明確にし、生まれ変わったまるか食品とペヤングブランドの製品が安全であることを示していただきたいと願います。

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