現在、世界中で新型コロナウイルスによる疾患「COVID-19」の患者が急速に増えています。国内でも国や自治体、企業や学校ばかりでなく社会全体で新型コロナウイルスの対応に追われています。残念ながら、水際対策やクルーズ船対応などを見ていると、国内での対応は効果的とは言えず、反対に感染者が日々増加している状況であり、世界保健機関(WHO)からも「最大の懸念」と言われる国の一つとされています。

こうした状況の中で、政府は全国の小学校・中学校・高等学校に対して臨時休校を要請しました。また、企業や組織は感染予防のため、それぞれの判断で

  • 渡航自粛
  • 時差出勤
  • 在宅勤務
  • 大人数が集まる会議やイベントの自粛

等の対応を行っています。しかし、現時点では感染封じ込めの成否や収束時期の見通しが立っておらず、今後の国内外での感染の広がり次第によっては、業務継続計画(BCP)に基づく本格的な対応が求められます。一部の企業等では以前に新型インフルエンザ流行を想定したBCPを策定していますが、そのような動きが盛んだったのは10年ほど前のことであり、見直しがされていなければそのまま適用できるものではありません。

今回は新型コロナウイルスなどの感染症に対する業務継続計画(BCP)を検討・実施するにあたってのポイントについて確認します。

災害と感染症との業務継続イメージの違い

企業や組織がすでに策定しているBCPでは自然災害、特に大地震を想定していることが多いと考えられます。2018年に内閣府から発表された「企業の事業継続及び防災に関する実態調査」によると、調査対象企業のうち9割以上が「地震」という回答だった一方で、「感染症」と回答した企業は全体の半分にも満たなかった、という結果となっております。

BCPで想定しているリスク

ここで注意したいのが、BCPは想定するリスクによって内容が異なり、そのまま流用することが難しいことです。感染症リスクについては、自然災害のリスクと比べて以下の特徴があると考えられます。

  • 社屋や工場、情報システム、ライフライン等の物理的破壊は起こらない
  • 人的被害が主であり、その影響は感染症の症状や広がりによって変動する
  • 感染症が流行期に入り、長期化することで、業務活動やライフライン等の利用サービス等に影響する可能性がある

災害等による業務復旧とパンデミックによる業務復旧のイメージを以下に提示します。ただし、これは感染者の大半が回復することを前提にしています。今回の新型コロナウイルスの様に、致死率を無視できない感染症の場合は、このイメージよりも業務の活動レベルが低下したり、復旧までの期間が長期化したりする可能性があります。

災害と感染症との業務継続イメージの違い

自然災害等のBCPでは、発災時に業務レベルが瞬時にゼロレベルまで落ち込むため、早急に最低限の業務レベルまで戻すことが最初の目標となります。その後の完全復旧に向けては、被災状況の程度や範囲に応じて対応する必要があります。特に工場などの施設や鉄道、道路等の社会インフラが破壊された場合、復旧が長期化する可能性があります。

一方、感染所の場合では業務レベルは当該感染症の感染者の増加に伴い低下していきます。特に社会全体で流行期に入った場合、感染者が急激に増加します。そのため、感染症におけるBCPの目標は、何とかして最低限の業務レベルを維持し続けることとなります。

新型コロナウイルスに関する考察(私見を含むことにご留意ください)

感染症に対するBCPを実行に移すには、実際の感染症の特徴に応じてBCPの内容を調整していく必要があります。しかし、新型コロナウイルスは未知のウイルスであり、その特徴なども不確定です。いわゆる「識者」と呼ばれる方の中には、 「広く検査を行ってデータを収集、分析して対処すべきだ」 という主張もあるようですが、現在進行形の危機である以上、そのデータ収集の間にも感染者は増え続けてしまいます。もちろんデータ収集の必要性を否定はしませんが、危機管理の観点から言えば、同時並行で解っている範囲ででき得る対応を進めていく必要があります。もちろん、中には間違った対応となる可能性もあります。そこは臨機応変に対応していくしかありません。

まず現時点で判明主な特徴は、以下の通りです。

・新型コロナウイルスの症状は感染者によって異なり、高齢者ほどリスクが大きい

新型コロナウイルスに感染すると無症状や通常の風邪程度の軽い症状から重症化するまでその症状は様々であり、時には死に至ることもあります。また、高齢者ほど重症化するリスクが大きいとされています。多くの従業員等は年齢的に重症化するリスクは低いのですが、決してゼロではないことに留意すべきです。

・潜伏期間は幅広い

世界保健機構(WHO)によると、潜伏期間は1日~14日の範囲内であり、多くは5日程度とされています。そのため、感染が疑われる場合は14日の観察期間が求められています。ただし、前項を考慮すると、14日間症状が出ていなくても、無症状だったという可能性もあるので、感染していないとは言い切れないと考えられます。

・感染の方法は飛沫感染、または接触感染である

新型コロナウイルスの感染方法は2通りとされています。一つは、感染者のくしゃみや咳による飛沫を吸い込むことで感染する飛沫感染です。もう一つは、感染者が飛沫等の付着した手で触れた物に接触することで、そこに残存したウイルスを取り込んで感染してしまう接触感染です。前者は他人との距離をとる等で避けることも可能ですが、後者については何処にウイルスが残存しているか解らず、仮に感染、発症してもどこで感染したか不明確となります。 なお、現時点では空気感染の報告は無いようです。

・治療法や特効薬等は存在しない

先に述べたように新型コロナウイルスは未知のウイルスであるため、現時点で治療法、特効薬、ワクチン等は存在しません。そのため、感染者の体力や抵抗力に依存せざるを得ない状況となっています。

現時点で国内の新型コロナウイルス感染者は数百人というレベルですが、これはあくまでもPCR検査によって陽性と診断された数に過ぎません。そもそもPCR検査の対象となるにはハードルが高く、疑いの強い方々を優先的に検査していることはご承知の通りです。しかし、今回の新型コロナウイルスでは潜伏期間や症状の振れ幅が大きいため、軽症、あるいは無症状の感染者が通常と同様の日常生活を送っている可能性が高く、知らず知らずのうちに感染者を増やしている可能性は否定できません。政府等は市中感染を否定していますが、個人的には既に市中感染が始まっているのでは、と考えています。ただし、まだ発生が抑えられている状況だという理解です。

新型コロナウイルスに対応するための業務継続計画(BCP)のポイント

先にも述べた通り、多くの企業で策定されている、地震等の自然災害に対応したBCPと、新型コロナウイルスなどの感染症に対応したBCPとでは考え方が異なります。

地震等の自然災害に対応したBCPでは発災時にゼロになった業務レベルを 「如何に最低限の業務レベルまで素早く復旧すべきか」 に取り組むことになりますが、感染症のBCPでは 「如何に最低限の業務レベルを維持できるか」 が重要となります。さらに加えて、局地的に発生する自然災害では可能である代替地での業務継続という選択肢は難しく、まさに「逃げ場がない」状態となります。また、感染症が収束するまでどのくらいの期間を要するか、予想ができません。感染症の被害対象は基本的に従業員等の人的資産のみとなります。よって、新型コロナウイルスが流行している期間に人的資産を損なうことなく、ウイルスの活動が収束に向かう際に際に素早く通常の業務レベルまで戻せるかが重要だと考えます。

(1)業務レベルの方針

業務レベルについては自社の状況と同時に社会全体の状況も含めて検討すべきです。つまり、自社の従業員の感染者がほとんど存在しなくても、取引先を含む社会全体の経済活動や社会活動のレベルが落ちている場合は、業務内容によってはせっかく出勤しても時間を持て余してしまうばかりでなく、ウイルス感染するリスクを増やしていることになるため、敢えて自社の業務レベルを落とす、或いは一時休業という選択肢も含めて考える必要があります。

以下に、感染状況と対応レベルの方針(例)を提示します。

感染状況と対応レベルの方針(例)

(2)出社状況のモニタリング

上記の例の様に、従業員等の感染者数を目安に業務レベルを決めるのであれば、前提として出社状況をモニタリングする必要があります。また、モニタリングの結果として業務レベルを移行する場合は、その通知手段を確保する必要があります。なぜならば、感染症の流行が始まった場合は既に感染症による欠勤者や観察期間に伴う自宅待機等の従業員も増え始めていることが想定されるからです。この場合、地震等の自然災害におけるBCPでも整備されている(であろう)安否確認の仕組みをうまく流用することで対応することが可能と考えられます。可能であれば、現時点から毎朝の検温や出社可否の情報を収集し、実用に耐えうるか確認するのもいいのではと考えます。

(3)事業継続の手段としてのテレワーク

現在、一般動向として出社することなく業務を実施可能なテレワークを推奨していますが、現時点でテレワーク環境が整備されていない、あるいは運用していない企業においては、慌ててテレワークに移行することはあまりお勧めしません。なぜならば、単純に自宅のPCにカメラを装着する等、安易な方法では混乱やトラブルが生じる、パフォーマンスが確保できない、といった状況になる可能性が高いと考えられるからです。

それでもテレワークの導入を望む企業に向けた基本的な留意点は以下の通りです。

テレワーク導入における留意点

  • 業務内容がテレワークで実施可能か

業務の内容や社会的な位置づけ、等を考慮し、自社の業務のうちどのくらいがテレワークに移行可能か検証すべきです。例えば、工場での生産業務や店舗での販売業務は当然ながら自宅でのテレワークに代替可能な業ではありません。また、いわゆる社会的な重要インフラの対象となる電力、交通、物流、金融、医療などに関連する企業も出社して業務遂行する必要があります。

  • テレワークに使用する端末は存在するか

現時点でノートPCやタブレット等を配布している企業であればハードルが低いのですが、従業員が自宅で保有するPC等を利用する場合は注意が必要です。当然ながら、企業内で決められた業務実施やセキュリティレベルを確保するためのソフトウェアが導入されていないことが多く、企業内の環境と同様の環境を構築するにはコスト(ライセンス料)と環境整備の労力(と前提としてのスキル)が必要となります。特に後者に関しては個々の従業員が対応せざるを得ないため、そこでのトラブル等の対応も必要になります。

また、企業内で使用するノートPCを自宅に持ち帰る場合は、社内規定の内容と照らし合わせて安全を確保可能な状況か確認する必要があります。

  • 安全な接続手段は確保されているか

意外と見落とされがちなのが通信手段、具体的に言えば、VPNなどの暗号化された通信手段の確保です。こちらも現時点で利用されているのならともかく、これから通信手段の調達を行って利用するとなると多大なコストと期間が必要になります。このような局面に直面すると、安易に家庭で現在使用している手近なネットワークを使うよう指示されることもありますが、それは問題です。家庭で使用するネットワークの大半は暗号化されていない通信回線であり、これを利用することは企業の情報が筒抜けになるばかりでなく、外部から従業員自宅の端末経由で社内ネットワークに侵入される可能性があるからです。恐らくは今も、そのような安易な接続を行っている端末を狙っているハッカーが数多く存在することが予想されます。例えば、集合住宅で用意されている共用の回線では、ハッカーが盗聴していることが何度も報告されています。

また、無料Wi-Fiを利用するために近隣のカフェ等で作業することも問題です。無料Wi-Fiはパスワード無し、または共通パスワードで運営されているため、簡単に盗聴可能です。それ以上に、近所とはいえ外出することは感染リスクを高めることであり、何のための在宅勤務か分からなくなります。

もう一つの観点として、回線の容量も考慮する必要があります。現在、テレワークやモバイルワークを活用している企業でも、外部からの通信は全従業員の数割程度だと想定されます。これをいきなり全社員がテレワークに移行となると、全社員が同一時間帯で企業ネットワークに接続するため、回線容量が足りなくなる可能性があります。さらに加えて、テレビ会議システムを導入すると、通信料は格段に増加することになります。

  • セキュリティ設定の変更は妥当か

テレワークを慌てて導入した場合、社内のセキュアなネットワークに対して外部から接続する出入り口を構築する必要があるため、その部分のセキュリティ設定について変更の有無や、セキュアな状態を保つための変更内容について確認する必要があります。これを安易に「緊急時だから」という理由で接続可能にする設定変更しか行わないという動きも散見されがちです。こうした状況を社外のはかーは狙っているものです。セキュリティの設定については緩くすることは厳禁です。

(4)重要業務の選定

感染症が流行してBCPが発動される局面とは、稼働可能な従業員が急速に減少する状況になります。感染者、あるいは感染の疑いのある者は出社できないのは当然ですが、残された従業員も感染リスクを抑えるため、その日その日の出社対象者をできる限り抑えることが必要となります。そのため、最小限の人数で事業活動を遂行できるよう、業務内容の絞り込み(重要業務の選定)や業務実施体制の変更が必要となります。

業務内容の絞り込みについては、感染症が流行しているという事態を鑑み、その中で取引先や顧客、あるいは社会全体が自社に対して何を求められているのかを適切に識別することが重要です。よくある間違いの例として、

・自社の主力となる製品やサービス

・売り上げの高い製品やサービス

・経営陣等の思い入れ

といった観点で選定するケースもありますが、それが感染症の流行時に本当に求められていることなのかを見極めることが必要です。

業種共通的な重要業務の例としては、以下が考えられます。

・経理部門:対外的な支払業務

・総務部門等:BCPの運営等

・販売部門、営業所、等:顧客サポートや問い合わせ業務

・IT部門:社内システムやネットワークの安定稼働

 

(5)事業継続時の体制

上述の通り、感染症BCPの発動後は稼働可能な従業員が限られているため、通常の体制では業務実施が困難です。そのため、限られた業務を最低限の人員で実施可能とするための体制変更等が求められる場合もあります。テレワーク以外のアイデアとして、以下の様な例が考えられます。

a)複数チーム制

部門やチームの人員を幾つかのチームに分割し、交代で業務に当たるようにする

仮にある時点での業務実施者に感染者が発生しても、別のチームが運営可能とすることで業務が停止することの内容に対応する

b)部門・拠点統合体制

部門や拠点の人員が限られている場合は、他部門や近隣の拠点を統合して業務に当たる

特定のエリアでの感染者数が急増した場合、当該エリアの拠点を閉鎖し、近隣の拠点に合流して業務を実施する

c)他拠点での勤務

テレワーク等の自宅勤務が難しい場合、住所から近い拠点(営業所、サテライトオフィス、等)での勤務を行う

部門や拠点での感染者発生や、当該地域での感染者数急増が予想される場合、一時避難の意味で他拠点に移動して業務を実施する

d)関連会社支援

自社の業務継続に必要不可欠な関連会社の稼働が危うい場合、その支援のために自社の人員を派遣する

e)一時休業

感染症の流行が最悪の局面を迎え、かつ自社の業務実施の重要性が高くない場合、感染リスクが低下した際に業務を再実施できるよう、思い切って一時的に休業することも考慮すべきです。

上記内容に関するご相談やお問い合わせについては、「お問い合せ」のページからご連絡ください。

デルタエッジコンサルタントでは、感染症に向けた業務継続計画(BCP)に関するコンサルティングサービスやアドバイザリサービスを提供しています。詳細はこちらをご覧ください。
==>「業務継続計画(BCP)構築支援サービス

なお、地震や火災等の業務継続計画(BCP)に関するコンサルティングサービスやアドバイザリサービスはこちらをご覧ください。
==>「業務継続計画(BCP)構築支援サービス

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