日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)では毎年、ITユーザー企業のIT投資やIT戦略の動向に関する「企業IT動向調査」を行い、発表しております。今回は4月に発表された今年度版を基に、現在のIT投資動向を中心に確認します。

「企業IT動向調査2016」調査結果

「企業IT動向調査」ではIT予算の調査について、絶対値ではなく、前年と比較した増減という観点で調査しております。2016年度のIT予算の対前年比を調査したところ、回答企業の4割以上が前年度よりもIT予算を「増やす」と回答しました。一方で、「減らす」と回答した企業は2割弱でした。
売上高別IT予算の増減
売上高規模別に見ると、売上高1000億~1兆円未満の企業の半数以上がIT予算を「増やす」と回答しており、IT投資に積極的な姿勢が見られます。また、売上高のどの階層でも「減らす」と回答した企業はほぼ同じ割合となっており、売上高が低いからと言ってIT投資に消極的になるということは無いことが確認できます。

IT投資によってどのような課題を解決したいか、上位3項目を回答した結果は以下の通りです。例年と同様、
・「業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)」
・「迅速な業績把握、情報把握(リアルタイム経営)」
の2項目に対する回答が多く、それぞれ約2割の企業が1位と回答しました。
IT投資で解決したい中期的な経営課題
近年、経済産業省ではIT投資を以下の様に分類しています。
・「攻め」のIT投資:IT活用による新たな価値創出や競争力の強化を目指すIT投資
・「守り」のIT投資:社内の業務効率化・コスト削減などを目的としたIT投資
今回の調査では上記に挙げた2項目を含む「守り」のIT投資に主眼を置く企業がまだまだ多いことが確認できます。また、セキュリティ確保や個人情報保護等を含む「企業としての社会的責任の履行」が前年より増加し、「守り」でも顧客重視という姿勢が見られます。

経営戦略とIT戦略とを整合させ、IT投資を行うべき、という考えが提示されて久しいですが、実際に経営課題に対してIT投資が十分に振り向けられている企業の割合は全体の3割弱となっています。
IT投資と経営戦略の整合性状況別、 IT投資の経営課題への優先振り向け状況
経営戦略とIT投資との関係性に着目すると、経営戦略とIT投資の関連性が高いほど、IT投資は経営課題に優先的に振り向けられる傾向が強くなることが確認できます。経営戦略とIT投資の関係性が不明確な企業では、経営課題に対して十分にIT投資が行われている企業は1割にも満たず、逆に経営課題に全くIT投資が行われていないと回答した企業は3割以上となっています。

調査結果に基づく考察

まず、IT投資の全体的な傾向について、8割以上の企業が前年比と同等、またはそれ以上という回答であり、IT投資に対して積極的な企業が大半を占める結果となりました。売上高に別に見ると、売上高1000億~1兆円未満の企業の半数以上が前年比以上のIT投資を行っていますが、一方で、売上高1兆円以上の企業では前年比以上のIT投資を行う企業は約35%であり、売上高100億円未満の企業とほぼ同等の結果となりました。これは、売上高1兆円以上の企業がIT投資にさほど積極的でないということなのでしょうか。
以下に、企業売上高別のプライベートクラウド構築状況を示します。売上高1兆円以上の企業ではプライベートクラウドの構築を既に行っている企業は半数以上であり、売上高1000億~1兆円未満の企業の約1.5倍の割合となっています。
売上高別プライベートクラウド構築状況
同様に、「既存システムのIaaS、PaaSへの移設」「新規システムのIaaS、PaaSへの展開」「SaaSの活用」といった、クラウド活用に関する調査結果も同様の傾向を示しています。つまり、売上高1兆円以上の企業はクラウド活用などのコスト削減策を積極的に活用した結果、IT投資の過剰な増加を抑えているとも考えられるのではないでしょうか。

IT投資で解決したい経営課題については、業務の効率化や迅速な業績把握といった内容は今年度に限らず、恐らくこうした調査が行われて以来常に上位を占めていると考えられます。こうしたこともあって「守り」のIT投資という分類をしているようです。しかし、上記の様にクラウドコンピューティングが普及する企業であれば、モバイル活用による営業担当者のワークスタイル変革やテレワークの実施等、場所を選ばずに仕事を実施可能な環境が充実すると考えられます。実際、別の調査項目では、「モバイルアプリケーション」を導入する企業はおよそ25%、「MDM(モバイルデバイスマネジメント)」はおよそ35%という結果が出ております。こうして考えると、昔はコスト削減一辺倒であった「業務効率化」の実現内容が積極的なIT活用の意味も含むよう、変化してきているように感じます。つまり「守り」だけではなく「攻め」のIT投資も含まれてきているのではないでしょうか。そういう意味では、質問の形式も時代とともに工夫していく必要があるのではないか、と考えます。

IT投資と経営戦略との整合性について、整合性がとれていない場合はIT投資が経営課題以外の領域に対しても優先的に行われる場合があるようです。その理由の一つに、経営層とIT部門との課題意識に差異があることが考えられます。別の調査でIT部門に期待する役割について、経営層とIT部門とで調査を行ったところ、「IT戦略立案」「業務改革推進」「情報セキュリティマネジメント」については経営層、IT部門ともに期待値が高くなっており、この領域については経営課題を反映したIT投資が行われていると考えられます。一方で、「システム開発」「システム運用」という、IT部門本来の役割とされている領域については、経営層とIT部門とで意識に大きなギャップがあります。このギャップの差が経営課題以外のIT投資の実施に影響しているのではないかと考えられます。
IT部門に期待する役割(経営層/IT部門)
この調査結果で気になる点として、「業務改革推進」におけるIT部門への期待値として、経営層が「縮小」と考えている企業が2割存在していることです。この数値を裏付けるような調査結果が見当たらないのですが、従来型のコスト削減を目的とする業務改善からの脱却を示唆しているのかもしれませんし、それとも、業務改善は事業部門に任せるべきと考えているのかもしれません。今後注目していきたいと考えております。

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