緊急事態宣言が解除されて経済活動が始まる中で、新型コロナウイルスの脅威は低減している訳ではありません。これまで感染予防のため在宅勤務を行っていた従業員がオフィスに出社するようになり、飲食店なども営業再開する一方で、感染者数も増加し始めています。特に東京では連日のように100名、200名を超える感染者が発生している状況です。しかし、政府は今のところ、緊急事態宣言を再発動させることに否定的な態度を示しています。

有効なワクチンも治療薬も存在しない新型コロナウイルスの感染を抑止するためには人々が接触しないようにすることが有効であり、そのための分かり易い手段は外出禁止、というのが緊急事態宣言の期間の考え方でした。一方で経済活動の停止という弊害も発生したことは周知のとおりです。そのため、今後全面的な活動自粛を促す要請は政府や自治体からは出しにくいと推測されます。また、残念ながら現状以上の支援や感染抑止に向けた積極策を期待することも難しそうです。

こうした中で、現在懸念されていることの一つが、「職場クラスター」の発生です。つまり、従業員が戻ったオフィスにコロナウイルスの感染者が入り込むと、瞬く間にそのオフィスで集団感染が発生する可能性が大きくなることです。そのため、各企業は職場クラスターが発生しない様、感染防止に向けた活動が求められることになります。同じオフィスビルで感染者が発生する等の場合は活動自粛すべきかどうかの判断も必要となります。

オフィス空間は「3密」空間

近年のオフィスは密閉、密集、密接のいわゆる3密が発生しやすい構造となっています。感染者の多い3密空間として、現在はホストクラブなどの接待を伴う飲食店が話題になることが多いのですが、オフィス空間も入り口は電子錠で常に施錠され、窓を開けることもできません。従業員同士は距離を空けるようにしていても、ちょっとした確認や相談をする際に近距離で会話することになります。また、会議の際には、多くの従業員が会議室に密集して発言しあうことになります。大声で騒ぐかどうかくらいが飲食店との違いです。これから暑い時期が始まりますが、そうなるとさらに密閉度が高まる可能性があります。

もし職場クラスターが発生した場合、オフィスの構造や感染者の職務内容にも依りますが、出社していた従業員は濃厚接触者とされてしまい、隔離されて健康観察期間に入ります。入院して治療を受ける従業員は、重症化しなくても1か月以上は仕事ができない状態になります。オフィス内の消毒も求められるため、当該オフィスはしばらくの期間機能不全に陥ってしまいます。もし営業職等が感染した場合は、取引先にも迷惑をかけることにもなりかねません。

緊急事態宣言下で全体的に経済活動レベルが低い状態であった場合ならともかく、現時点でオフィスに感染者が発生することは、自社だけが経済活動を停止せざるを得ないため、同業他社から後れを取ることになります。そのため、自社オフィスの感染防止に努めることは重要だと考えられます。

リモートワークは「攻守」の切り替えを

職場クラスターを防止する最も有効な手段はやはりリモートワークです。オフィスに通勤する従業員を減らすことで、従業員の感染リスクを減らすこともできるし、オフィスが密になる状況を避けることもできます。実際に、現在もリモートワークでの業務を継続している企業もあります。しかし、緊急事態宣言下で行われてきたリモートワークでは業務が回らない、と考える企業もあるでしょう。

緊急事態宣言の際には、外出を控えて自宅に籠る、生命を守るための「ディフェンシブ」なリモートワークが行われてきました。しかし、経済活動が始まった現在では、効率性とパフォーマンスを重視した「オフェンシブ」なリモートワークが求められます。そして、今後しばらくは新型コロナウイルスの流行状況に応じて、この2種類のリモートワークをうまく切り替えながら業務を実施することになります。もちろん、その前提として、

・安全な通信の確保
・社内ツールや情報システム等の外部からのアクセス対応
・紙資料のデータ化

といった対応が前提になることは言うまでもありません。

リモートワークについて、社外での作業に不安を感じる場合は、従業員の居住状況や取引先の所在地を踏まえた、サテライトオフィスの設置も選択肢の一つです。オフィスと同等レベルの通信環境とセキュリティを確保したサテライトオフィスであれば、本来のオフィスと同じくらいのパフォーマンスで業務を遂行することも可能になります。また、従業員がターミナル駅を経由しない場所にサテライトオフィスを設置することで、従業員の感染リスクを減らす効果があると考えられます。

感染対策とセキュリティとのバランス

各企業はオフィス内でも様々な感染対策を行っていますが、一方で、本来整備されたセキュリティレベルを下げるような対応をしているケースも散見されます。例えば、先日訪れたあるオフィスでは、以前は常時施錠されていた扉を常時開放していました。話を聞くと、やはり換気が重要だということで、電子錠で閉め切っていた扉を開けるようにしたこと、開けたり閉めたりという作業も面倒なので常時開放することにしたということでした。しかし、そもそも、不審者が侵入することを防止するために電子錠付きの扉にしたはずなので、この状況は本来の目的を達成できていないということになります。特に現在は誰もかれもがマスクをしている状況なので、特に大人数のオフィスでは従業員かどうか判断できない場合もあります。このような場合、以下の様な対策が考えられます。

・出入り口付近に常時誰かがいるよう、座席を配置する
・オフィスとは別の場所やフロアに打合せ場所を確保し、外部の者はオフィスに入れない
・どうしてもオフィスに入れる必要のある訪問者は、必ず応対者が付き添う
・・・

もちろん、今の時期は感染リスクの低減を最優先とすることに異論はありません。だからと言って、セキュリティリスクが高くなってもいいという発想にもならないでしょう。よく、セキュリティとそれ以外の目的はトレードオフ関係なので、という主張が聞かれますが、それはどちらかを取る、ということではなく、両者のバランスをうまく考えてどちらにも対応していくという発想であるべきです。

現在、日々の感染者が増加する中で、新型コロナウイルスに感染するリスクを踏まえた適切な感染対策を行いつつ、経済活動を行うことが求められています。残念ながら、この新型コロナウイルスに対して安全・安心を確保することは難しい状況はしばらく継続することになります。そのため、この感染症の動向や専門家の知見、政府や自治体からの「お願い」、等、常に最新の情報を入手し、都度対処方法を見直し、検証していく必要があります。そして従業員一人一人がその対処方法に従い、活動していくことが重要です。

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