国内ではIT基盤としてクラウドサービスを選択する企業が多く、現在も増加し続けていると言われています。一方で、クラウドサービスに対する不安や懸念から、採用を見送る企業も存在します。このように対立する意見が聞かれる中、実際のところはどのような状況なのかについて、総務省が毎年調査し、公開している「通信利用動向調査」の最新結果を確認します。その上で、クラウドサービスを利活用する上でのポイント等を見ていきます。

平成28年通信利用動向調査の概要と結果

「通信利用動向調査」とは、総務省が情報通信サービスの利用状況等について毎年実施している調査です。調査自体は世帯と企業を対象にしておりますが、今回紹介するクラウドサービスの利用動向等については企業を対象とした調査です。企業調査については従業員100名以上の企業およそ2,000社の回答結果に基づき集計されています。

①クラウドサービスの利用状況推移
クラウドサービスの利用状況の推移

クラウドサービスを利用する企業は年々増加しており、平成28年度時点では調査対象企業の半数近くが何らかのクラウドサービスを利用しています。さらにその半数以上は全社レベルでクラウドサービスを利用しています。

②クラウドサービスの利用状況(産業別・売上高別)
クラウドサービスの利用状況(産業別、売上高別)

産業別に見ると、金融・保険業では約7割の企業がクラウドサービスを利用しています。一方で、運輸業、製造業、建設業でクラウドサービスを利用する企業は半数を切っています。
また、売上高別に見ると、売上高の高い企業ほどクラウドサービスの利用割合が高いことが分かります。
以上から、クラウドサービスの利用割合が低い産業は、売上高の小さい中小企業の割合が高いためであると推測されます。

③利用しているクラウドサービス
利用しているクラウドサービス

具体的に利用しているクラウドサービスを確認したところ、電子メールやファイルサーバーなど、社内ツールとして利用できる単機能サービスの割合が高くなっています。一方で、業務システムのクラウド化はまだ低く、今後の進展に期待するところです。

④クラウドサービスを利用している理由
利用しているクラウドサービス

クラウドサービスを利用する理由を見ると、大きくコスト、リスク、利便性の3つの観点で分類することができます。特に意見が多かった理由は、「自社にITを運用、保守する体制を持たないこと」「社内外どこからでもアクセス可能であること」でした。

⑤クラウドサービスの効果
クラウドサービス導入効果の有無

クラウドサービスを導入した企業において、効果があったと感じている企業は全体の85%以上となっております。一方で、明らかに効果が無い、むしろマイナスだったと回答した企業は全体の1.5%に過ぎません。このような質問は主観的に回答されるため、大きく割れることも多いのですが、クラウドサービスに関しては満足度が非常に高く、特徴的な結果となっています。

⑥クラウドサービスを利用しない理由
クラウドサービスを利用しない理由

クラウドサービスの導入企業が増加する一方で、クラウドサービスを利用しない企業もまだ多い状況です。クラウドサービスを利用しない理由として最も多かったのは「必要がない」でした。それ以外の理由は主にセキュリティやコストに関する不安となっています。
法制度の対応については、以前はクラウドサービスのデータセンターが米国に集中していたため、米国愛国者法の影響を受ける可能性があるという理由でクラウドサービスの利用を躊躇していた企業もありましたが、今では日本国内にも海外クラウドサービスのデータセンターが構築されているため、法令等のリスクは減少しました。しかし、一部業界等ではクラウドサービスの利用を前提とした制度が残存しているので、注意が必要です。

⑦クラウドサービスと労働生産性
クラウドサービスと労働生産性

通信利用動向調査ではITの利活用と労働生産性との関連性についても提示しています。クラウドサービスを利用する企業とそうでない企業とで労働生産性の比較を行ったところ、クラウドサービスを利用する企業は1.2~1.3倍労働生産性が高いという結果でした。

クラウドサービス導入にあたっての事前検討

何事においても共通ですが、何も考えずに取り敢えずクラウドサービスを導入しよう、という考えでは有効な活用は難しくなります。クラウドサービスの導入は単純にサーバーの置き場所が自社から外部になるだけではありません。シェアリングエコノミーが人々のライフスタイルを大きく変えるのと同様、企業における業務プロセスやワークスタイルにも大きく影響する可能性があります。
クラウドサービスを導入するに当たって事前に検討すべき代表的な事項を取り纏めましたので、ご確認ください。

1.クラウドサービスの利用範囲

(1)利用範囲の明確化

  • クラウドサービスへの移行対象と移行優先順位の確認
  • クラウドサービス移行に伴う情報連携の有無の確認
  • クラウドサービス移行に伴う運用ルール変更等の確認

(2)クラウドサービスの選定とコスト

  • クラウドサービスの選定条件の確認
  • 選定されたクラウドサービスの概算コスト確認

(3)クラウドサービスで取り扱う情報の重要度

  • クラウドサービスで取扱う情報の重要性に基づく分類
  • 重要度の高い情報の管理レベルや要件の確認

(4)クラウドサービスと社内セキュリティポリシーやルールとの整合性

  • クラウドサービス利用が現状のセキュリティルールと不一致となる事項の確認
  • 上記事項に対する対応:クラウドサービスの運用ルール検討、セキュリティルール変更の検討、等
  • 法制度等との整合性の確認
2.クラウドサービスの利用準備

(1)クラウドサービスに関する利用管理担当者の任命

  • 利用管理担当者の業務内容確認
  • 利用マニュアル整備や利用方法の指導
  • ヘルプデスク
  • 障害時のクラウド事業者との連絡調整等
  • クラウドサービスにおけるリソースのモニタリングと変更

(2)クラウドサービスを利用するユーザーの管理

  • サービス毎の利用者の確認と登録
  • 利用者の権限の確認と登録
  • モバイル利用 者に対するVPN認証方法の確認

(3)パスワードの設定ルール

  • ユーザーアカウントに対するパスワードルールの確認
  • パスワードリセットのルール策定

(4)データのバックアップ

  • クラウドサービスの停止に備えたバックアップ方針の策定
  • セキュリティルールに基づくローカル保存データの確認
3.クラウドサービスの提供条件等

(1)クラウドサービスを提供する事業者の信頼性確認

  • 確認事項の例:株式公開の有無、事業継続期間、利用者の規模、事故や障害の情報 、等

(2)クラウドサービスのサービスレベル確認

  • 確認事項の例:稼働率、障害発生頻度、障害時の回復目標時間、等
  • 障害時の連絡方法や連絡先の確認
  • 運転状況等の情報提供有無の確認

(3)クラウドサービスにおけるセキュリティ対策の内容確認

  • OSやミドルウェア、アプリケーションのアップデートや修正プログラムの適用
  • 可用性や信頼性を確保する対策:サーバーやストレージの多重化・冗長化、等
  • データの暗号化機能
  • クラウドサービスでの自動バックアップ有無と概要
  • ウイルス・マルウェア感染や不正アクセスに対する対策の概要
  • 障害や攻撃に対する監視、検知、解析、等の概要
  • データセンターのセキュリティ対策概要:防犯設備、入退室管理、災害対応、等
  • データセンター運用に関するセキュリティ概要:運用担当者のアクセス権限や管理者特権の管理概要、作業内容や操作ログの管理概要、等

(4)クラウドサービスの利用に関する支援内容の確認

  • ホームページ上のFAQの有無
  • ヘルプデスクの窓口有無と連絡方法の確認

(5)クラウドサービスの利用終了時における自社データの取扱い確認

  • データ返却の有無:タイミング、データ形式、受け渡し方法、等
  • クラウド上に残存するデータの消去確認、等

(6)契約条件の確認

  • サービスの価格や内容の変更に関する条項
  • 守秘義務
  • 損害賠償規定
  • 契約解除通知

シェアリングエコノミー時代としてのクラウドサービス

現在、社会の消費スタイルは大きく変化しています。個人が様々な資産を単独で所有する形態から、個々の資産を共同で利用する、シェアリングエコノミーと呼ばれる形態に移行しつつあります。AirbnbやUberは代表的なサービスであり、自動運転車が実現したら自動車も所有から利用にシフトすると言われています。
ITの世界でも例外ではありません。企業では様々な情報システムやITインフラが稼働しています。事業環境が素早く変化する現在、こうしたIT機器を所有し運用することは、企業にとって大きな負担となる場合もあります。クラウドサービスを活用することで、ITを利用する負担が従来よりも少なくなり、より高度に活用できる可能性があります。特に、これまで十分にIT利活用に取り組むことができない企業、何年も前に導入した機器やシステムを騙し騙し運用している企業、ITの所有や運用に関する負担が重いと感じる企業、等にとっては有効な解決策の一つだと考えます。

参考:
総務省、通信利用動向調査(企業編)「平成28年報告書」(PDF)

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