今年も9月1日の「防災の日」を迎えます。ご存じの通り、「防災の日」は1923年(大正12年)の関東大震災の発生日にちなんだものです。この「防災の日」を含む8月30日から9月5日までの期間は「防災週間」とされ、この時期に防災訓練を行う自治体や企業も多いようです。
さて、こうした防災訓練に関するニュースや報道発表を見ると、防災訓練の内容が形骸化していたり、防災イベント的な催しとなっていたりすることが散見されます。もちろん、住民や従業員の防災意識を高める、対外的なアピールを行う、という側面もあるので否定はしませんが、実際に災害が発生した場合の即応力はどうなのか、不安に感じます。
今回は災害時対応等の訓練について確認します。

ありがちな防災訓練の課題

通常見られる防災訓練とは、概ね以下の様なイメージではないでしょうか。

  • 年1回の実施。
  • あらかじめ訓練のタイムテーブルが発表されている。
  • 参加者は希望者中心。
  • 訓練開始時に「訓練を始めます」とアナウンスされる。時には、訓練開始の挨拶がある。
  • あらかじめ、災害対策時の役割毎(避難誘導班、救護班、等)に人員が配置されている。
  • 見たこともない資材や機材が事前に準備されている。
  • 訓練の目標は、タイムテーブルに遅れないこと。

等々

こうした防災訓練には、以下の様な課題があります。

1.訓練自体が形骸化、イベント化
防災等の訓練の必要性を感じていますが、実際にやるとなると、準備や運営にある程度のリソースが必要になります。その結果、毎年同じ様な内容の訓練を行うことになります。中には、「前回は地震を想定していたけれど、今年は台風にしよう」というように想定した災害だけを変えて実際の訓練のシナリオや内容はほぼ同様、という場合もあります。
防災計画や業務継続計画を策定する企業は増えてきていますが、その内容をチェックするための訓練なのか、策定した計画に基づいて様々な局面に対応できるようにするための訓練なのか、訓練の目的も明確でない場合が多く、「訓練を実施した」ことが一番の目的となっていることもあります。こうした訓練に参加する側も参加意識が低くなり、参加者も十分に集まらず、毎回同じようなメンバーで回していることが多くなります。

2.訓練の内容が実態とかけ離れている
訓練の実施自体を目的とする場合、上述の通り「タイムテーブル通りに進める」ことが重要視されます。しかし、実際の災害等では想定したシナリオ通りに事態が進行することはほとんどありません。むしろ、想定以外の事象が発生することがほとんどでしょう。そのため、適宜不測の事態をアナウンスし、訓練参加者に臨機応変に対応させることが本来は重要なはずです。例えば、電気が止まる、通信ができない、といった状況が考えられます。しかしながら、実際に行われる訓練では不測の事態による対応を行うような内容は盛り込まれることは無く、むしろシナリオを先読みした行動が行われがちになります。逆にライフラインや通信は使い放題、災害時に必要な資材などは保管庫や倉庫から出されて並べられる、といった環境が整備されている場合がほとんどです。参加する方もその辺りは分かっていて、指示のある前に避難路に出て集合場所に向かう、といった行動を取りがちです。

3.訓練の結果が反映されない
訓練の実施することが目的となっている場合は、訓練を実施した中で課題となった点をフィードバックする活動も行われません。むしろ、タイムテーブル通りに推移させるため、計画やマニュアルの内容を進行し易いように改変して訓練を行うこともあります。また、訓練の途中で課題となった事象について、計画やマニュアルの改善を行うのではなく、訓練を進行しやすくするための修正が行われます。このような訓練ですから、参加者にスキルが身につくことはありません。

こうした防災訓練を行っても、実際の災害が発生した時に対応することはできません。むしろ、当初の(自分勝手な)想定通りに動かないことでパニックに陥ってしまい、二次災害を引き起こしかねません。

訓練の目的を明確化することが重要

防災等の訓練は業務時間の中で時間を割いて行う者となります。そのため、より実践的で実効性の高い訓練を行うことが重要です。そのためには、まず、「何のために訓練を行うのか」という、訓練の目的を明確にする必要があります。
一言で訓練と言っても、目的に応じて以下の様な分類ができます。

  1. 防災計画や業務継続計画(BCP)が、策定した通りに動くのかを検証するための訓練
  2. 防災計画や業務継続計画(BCP)の内容を実際に行い、習熟させるための訓練
  3. 発生した災害や被害状況に応じて対応力を養うための訓練
  4. 複数の組織や行政との連携を確認するための訓練

上記のいずれの場合でも、参加者にはシナリオやタイムテーブルを公開せず、参加者自身の想定の範囲を超えた場合にどう行動するか、身をもって考えさせるような訓練を行うことが重要です。また、以上の様な目的を達成するためには年1回の訓練では十分ではなく、習熟度や対応力のレベル別に数回に分けて実施する必要があります。特に人事異動後に着任した新しい部署や拠点では、これまでとは異なる対応を強いられるケースがあるので、そのタイミングで一度訓練を実施することも必要だと考えます。

訓練プログラムの策定

訓練の目的を決めた後、その目的を達成するための訓練項目や訓練の流れを策定します。その際には、個々の参加者が何時何分に何をする、といった内容ではなく、参加者自らがどのような行動をすべきか考えるような内容とすることが重要です。具体的なシナリオやタイムテーブルを伝えないことで参加者が慌てたり、混乱したりすることになるかもしれませんが、逆に現行計画における様々な課題が明らかになります。訓練の責任者は「訓練の成功」を気にしますが、スムーズに遅滞なく進むことが成功ではないことを認識すべきです。
また、訓練では幾つかの「想定外」を含めることもいいと思います。例えば、多くの企業では災害対策本部を本社の大きな会議室に設定していると思います。しかし、災害の状況によっては建物そのものが使えないという事態も発生する可能性があります。事実、熊本地震で被災した自治体では、重なる大きな地震で市庁舎そのものが大きなダメージを受けてしまい、市庁舎以外の場所で慌てて災害対策本部を設置した、という話もあります。

災害対策行う際には、「想定」した範囲での対策を行いますが、予算やリソースは限られているため、「想定」範囲は「最大のリスク」を意味するものではありません。しかし、実際に災害が発生すると、様々な「想定外」のことが起こります。こうした訓練を通じて、「想定」の範囲での備えで、「想定外」にも対応できる能力をつけることが重要だと考えます。

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