作成日:2015/7/3
タカタのエアバッグ問題が一向に収束する気配がありません。タカタは先月の株主総会後に、リコール問題関連で初めて高田社長が公の場に姿を現して記者会見を行いました。しかし、その内容は現状の説明に留まり、問題解決に向けた方向性は不透明です。
一方、昨年末にカップ焼きそば全製品の製造販売停止を決めたまるか食品については、先月から販売を再開したところ、追加注文が殺到し、関東以外の地域での販売再開を延期せざるを得ないという状況となっています。
業種やマーケット規模、関係するステークホルダー等、両社を取り巻く環境は大きく異なるので単純に比較はできませんが、それぞれの対応内容を確認することで、企業や組織に危機的な状況が発生した場合にどう対処すればいいか、参考になるのではないでしょうか。
タカタのエアバッグ問題
タカタのエアバッグ問題については、昨年末から今年の初めにかけて、リコール対象地域を高温多湿地域のみとするか、全米に拡大するかで揉めておりましたが、今年の5月18日にタカタは全米の約3400万台の車両に搭載されたエアバッグインフレーターの問題に伴う欠陥を認め、米国でリコールを実施することで米道路交通安全局(NHTSA)と合意したことを発表しました。その後、以下の日程で公聴会が行われました。
- 6月2日:米下院エネルギー商業委員会
- 6月23日:米上院商業科学運輸委員会
そして、6月25日の高田社長による記者会見となったわけです。記者会見の中で説明された内容は、大まかに以下の通りです。
エアバッグ不具合原因 「α事案」 |
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エアバッグ不具合原因 「β事案」 |
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リコール拡大について |
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再発防止対応 |
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交換品について |
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集団訴訟について |
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引当金について |
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その他(質疑応答) |
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(各社報道内容等に基づき、デルタエッジコンサルタントで作成)
予定時間の1時間半を超える記者会見だったので、発言内容をまとめただけでもかなりの分量となっております。報道等でもこの記者会見に対して様々な評価が行われています。以前、弊社ブログ「タカタ社製エアバッグのリコール問題(2014/12/4)」において、タカタが今後すべき対応について提示しましたが、上記記者会見の内容から対応状況の確認を行います。
対応すべき項目(弊社ブログ) | 評価 | 寸評 |
a.消費者目線でのスタンス | × | 今回の会見内容で、一般消費者の不安が解消されたとは考えにくい |
b.リコールの全米対応 | △ | 5月18日にNHTSAと合意したが、もっと早い対応もできたのでは? |
c.エアバッグ製品の安全性の明示 | × | 「β事案」以外についても、安全性の根拠が不明確 |
d.情報隠ぺいの調査 | × | 特に触れていないが、米上院の委員会が「安全よりも利益を優先させていた可能性がある」という報告書を発表 |
e.経営トップによる説明 | △ | 6月25日に実施したが、現状説明のみで、問題の収束については不明確 |
それでは、個別に確認していきます。
a.消費者目線でのスタンス
今回の記者会見が、米国の消費者のエアバッグに対する不安を払しょくする内容だったか疑問です。タカタはインフレータ設計やガス発生剤の硝酸アンモニウムについて問題がないと言いつつ、いわゆる「β事案」についてはガス発生剤が吸湿した結果、不具合が発生する可能性があるとしています。米国の自動車ユーザの立場から見れば、自分の乗る車のエアバッグは問題ないのか、リコールで交換した部品ならば安全なのか、という問いに対して安心する回答がされるか、ということです。しかし、今回の会見ではその域まで達していないと思います。
また、今回の記者会見に限らず、以前の公聴会やプレスリリース等でも、タカタは出荷されたインフレータに対する破損事故が極めて少ないという主張をしていますが、非常に気になります。生産工学上は確立論やシックスシグマでいいのかもしれませんが、世間に向けてはもう少し考えないといけないのではないでしょうか。もちろん、どんなプロダクトでも不具合の発生をゼロにすることは困難ですが、もう少し言い方を工夫すべきと考えます。
b.リコールの全米対応
以前のブログでいずれ受け入れざるを得ないという考えを提示しておりました。NHTSAや自動車メーカとどのようなやり取りがあったかはわかりませんが、結果的に対応せざるを得なかったと思います。今年初めの時点では、リコール対応するインフレータが足りないといった物理的な問題もあったと思いますが、今回の様に優先順位を設定すれば対応できなかったこともないと考えます。しかも、NHTSAによる罰金(1日当たり1万4000ドル、2月20日~5月18日)や、米国の世論の評価を落とした、といった代償を払う結果となっています。
c.エアバッグ製品の安全性の明示
いわゆる「β事案」について原因が究明されておらず、また、その状況を根拠として、タカタの責任等について明言を避けています。また、リコール用の交換用のインフレータについても安全性を確保したと主張しておりますが、その根拠となるデータや説明資料等はホームページ等にも提示されていないようです。よって、エアバッグの安全性が確保されているとは考えにくい状況です。
d.情報隠ぺいの調査
こちらについては記者会見では特に触れていないのですが、直前に行われた米上院での公聴会に先立って、委員会に所属する民主党の議員団が「タカタは安全性より利益を優先させた可能性がある」とする報告書を公表しました。タカタから提出された文書や電子メールを確認し、2011年4月初めにタカタ幹部から社内関係者に「グローバル安全性検査が過去2年間、財務上の理由で止まっている」という内容の電子メールを公開しました。また、「タカタは2007年前半に(問題のエアバッグ部品である)インフレータの欠陥を含む3件の深刻な事故の報告を受けていた」とも指摘されています。そして、「タカタは早ければ2001年にも工場での品質管理上の過失に気づいたか、気づくべきだった」と結論づけています。
当然、公聴会ではタカタは否定していましたが、エアバッグのリコール問題が収束に向かわないと、情報隠ぺいに関わる問題が注目される可能性があります。
e.経営トップによる説明
危機管理における経営トップの記者会見については、正しい調査結果と今後の対応を明確にすることで、事態の収束やダメージの軽減といった効果が期待されますが、今回の記者会見では、そういった効果は薄かったという印象です。調査結果の状況については事実ベースで説明を行っていたとは思いますが、今後の方向性については未確定な部分が多く、ダメージを抑えきれない状況である印象を受けました。いわゆる「β事案」について、結果を待つという姿勢ではなく、もう少し積極的な対応を示した方が良かったのでは、と考えます。
また、上院の公聴会では事故の被害者に対する補償基金の設置について問われたのですが、公聴会では即答を避け、記者会見でも検討中という回答でした。後日のプレスリリースや後方からの発表でもいいのですが、この記者会見で、基金という形でなくとも社長の口から何らかの形で誠意を見せた方が、効果が大きかったのではと考えます。ただ、期間として2日程度しかなかったので、難しかったのかもしれません。
まるか食品のカップ焼きそば販売再開
まるか食品ではカップ焼きそばの異物混入騒動を受けて、昨年12月11日以降、全商品の製造・販売を休止していましたが、社内での取り組みに⼀定の目途がついたとして、5月に製造、6月8日に関東地区で販売が再開されました。その後、注文が殺到したため、工場は24時間フル操業しているにもかかわらず、他地域での販売再開が7月に延期されたことは報道等でご存じだと思います。
まるか食品の工場は、生産休止まではどこかの町工場ではないかと思うくらい、年季の入った機械とむき出しの生産ラインのインパクトが大きかったのですが、現在の工場はクリーンルーム化されており、自動化も進んでいるという印象を受けました。私も仕事の関係で何度か食品関係の工場に立ち入ったことがあるのですが、見た目には大手の食品会社と比べてもそん色のない設備だと感じます。
まるか食品の発表では結局、異物混入の原因や経路は特定できなかったということですが、だからと言って放置することはせず、異物混入の可能性すべてに対策を施したようです。
具体的な再発防止策としては、以下の通りです。
防虫対策としての設備面の改善 | 侵入経路を遮断するため、各種ハード面の改善工事を実施
等 |
製造ライン過程での異物チェック機能強化 |
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品質管理体制の強化・従業員教育の再徹底 |
等 |
(まるか食品ホームページに基づき、デルタエッジコンサルタントで作成)
また、実際に商品を手にされた方はお判りですが、製品容器をプラスチック製から発砲スチロール製に変更し、かつフタをシール状にして高い密閉性を確保するようにしています。
弊社ブログ「カップ焼きそばの異物混入問題(2014/12/18)」の中で、
- まるか食品工場の製造設備に何らかの大きな(致命的な?)問題がある
- 今後も同様の事象が発生する可能性が高い
と推測しました。当時はまるか食品の対応は過剰では、という意見もありましたが、消費者の食の安全に対する関心が高いことを考えると、妥当な判断だったとのではないでしょうか。
食品に対する異物混入のリスクは完全に防止することは困難ですが、発生した場合に消費者目線で、製品供給よりも再発防止に努めた結果が、販売再開の盛り上がりになったのだと思います。
最後に
昨年末、世間を騒がせた2つの問題について、その後の状況を簡単に確認しました。一方は原因が特定されず、安全性がどこまで確保されたのか不透明な状態であり、一方は原因の特定はできなくても全ての可能性に対処して製品の生産・販売を再開しています。冒頭にも述べたように、グローバル製造企業と地方の食品製造企業とを単純に比較することはできません。タカタは最終的には特別損失を計上して赤字となったものの、この逆境の中でも連結ベースで売上、営業利益を伸ばしております。まるか食品は非上場なので財務情報は分かりませんが、生産・販売の中止期間は当然売上ゼロであり、かつ多額の設備投資を実施しています。加えて販売中止前の全商品を回収しており、従業員の解雇も行っていません。
最終的に消費者にどのように向き合い、どう対応するのか、それによって世間はどう反応するのかを、この2社の事例は示しているのだと考えます。
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