2015/6/8
2015/6/23 修正(写真追加)

世界中の企業人に多大な影響を与えてきた、「マネジメントの父」と呼ばれるピーター・F ・ ドラッカーの名を知らない方はいないでしょう。ドラッカー氏が亡くなって今年で10年が経過しましたが、彼の著作は未だに多くの人に読まれています。
その彼の別の一面として、古い日本絵画の熱心な収集家であり、研究家であったことはどのくらいの方がご存知でしょうか。彼のコレクションは室町時代の水墨画、禅画、文人画を中心に200点以上の作品で構成されています。そのうち100点以上が現在、千葉市美術館にて開催中の展覧会「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画 「マネジメントの父」が愛した日本の美」にて公開されています。私も週末に鑑賞してきました。
ドラッカー展

ドラッカー氏と日本美術との出会いは、突然の雨嵐のため雨やどりに入った建物で、たまたま日本美術の展覧会が行われていたことでした。その時の印象を「恋に落ちてしまった」というドラッカー氏にとって、日本美術は生活に欠かせないものであり、多忙な毎日の中から「正気を取り戻し、世界への視野をただすために日本画を見る」と語っていました。そしてそのことが自らの洞察を深め、本質を見抜き、マネジメントに関する新しい概念を導出するに不可欠であったと考えられます。

さて、展覧会の内容ですが、狩野探幽、伊藤若冲、尾形光琳の作品を始め、仙厓や白隠の禅画、池大雅や浦上玉堂の文人画など、著名な人物の作品と並んで、ドラッカー氏のコレクション以外に作例を見ない人物の良品も多く、ドラッカー氏がいわゆるブランド信仰でなく、純粋に作品の良し悪しを見ていた様に思います。よって、どの作品も見応えがあるのですが、印象に残った作品を敢えて3点ほど選びました。

・雪村周継「月夜独釣図」
画面中央部の樹木が強風に吹かれる「動」とその右にある舟や漁夫の穏やかな「静」の対比が印象的でした。

・長澤芦雪「娘道成寺図」
道成寺と言えば鐘の中で白拍子が蛇体に変化する場面が印象深いですが、まさにその瞬間を捉えた構図が斬新に思いました。

・中村竹洞「夏冬山水図」
夏図→黒、冬図→白との対比と、山や岩の連なりの部分にデザイン性があって面白く感じました。

また、会場の所々にドラッカー氏の言葉が掲示されていたのですが、その中で東西の絵画の違いについて、ドラッカー流の見方で解説されていました。すなわち、

  • 西洋絵画は遠近法に基づき幾何学的である
  • 中国絵画は「三遠法」(高遠,平遠,深遠)に基づき代数学的である
  • 日本絵画は空間が統合され、位相幾何学的(トポロジカル)である

まさか美術の世界でトポロジーという言葉を聞くとは思いませんでした。(私も大学の授業以来なのでほとんど覚えておりません。)ドラッカー氏は「日本画は空間が支配しており、空間によって画が統合されている。その中では、線が空間を規定するのではなく、空間が線を規定している。」と論じています。これを我々の様なコンサルタントの仕事で言えば、個々の構成要素を分析して組み合わせるだけでは全体が見えてこない、全体を統合的に見渡すことが重要であるという考えに通じていると思われます。あるいは、ビジネス空間が決められたルールや仕組みで構成されているのではなく、場の空気感や心理的要素等の具象化されない部分を踏まえてルールや仕組みを構築していくことが重要であることを、墨の濃淡から感じ取っていたのかもしれません。

もちろん、こんな難しいことを考えなくても、楽しめる展覧会なので、興味のある方は足を運んでみてはいかがでしょうか。千葉まで東京駅から40分くらいなので、思ったほど遠くないと思います。(駅から少々歩きますが...)

なお、千葉市美術館のある建物の1階は、昭和2年に建てられた旧川崎銀行千葉支店の建物を保存したものであり、最近よく見かける新旧建造物が融合した建物となっています。建造物に関心があれば、こちらも確認なさってはいかがでしょうか。
千葉市美術館

千葉市美術館
「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画 「マネジメントの父」が愛した日本の美」
会期 2015年5月19日(火)~ 6月28日(日)