2015/03/16
先週の13日、政府は不正競争防止法の改正案を閣議決定しました。改正案は国会に提出され、今国会の会期中での法案成立を目指すことになります。
昨年発生した、東芝の研究データを不正に持ち出し海外企業に渡した事件やベネッセの顧客情報漏えい事件など、企業の重要な財産である技術情報や重要情報の流出が相次いで発生しています。また、被害の大きさも増大しており、情報技術の進化に伴ってその手口も高度化しています。今回の改正案はこうした状況に対応するとともに、営業秘密の侵害行為に対する抑止力の向上等を刑事・民事両面で図る内容となっております。
今後、法案成立までに修正が入るかもしれませんが、今回は国会提出時点における改正案の内容を確認します。
不正競争防止法の改正案概要
今回の改正案は、大きく「抑止力の向上」と「処罰範囲の整備」の2項目に対して行われています。
「抑止力の向上」については、企業の保有する営業秘密の価値が増大した結果、被害が大きくなったり、流出させた犯人に対する報酬が高額化したりすることを踏まえ、刑事・民事両面で、これを抑止するための措置となります。具体的には、以下の通りです。
罰金額の引上げ及び犯罪収益の没収等 | 刑事 | 罰金の引き上げ 個人:現行1千万円 → 2千万円(海外重課 3千万円) 法人:現行3億円 → 5億円(海外重課 10億円) 犯罪収益の没収規定(個人、法人)及び関連する手続規定(保全手続等)を設ける |
非親告罪化 | 刑事 | 営業秘密侵害罪を非親告罪とする(公訴提起にあたって被害者からの告訴が不要となる) |
立証負担の軽減 | 民事 | 被告による営業秘密の使用を推定する規定等を創設(被告が物の生産方法に係る営業秘密を不正取得したことを原告が立証した場合に限り、被告が当該営業秘密を使用して製品を生産したものと推定) |
企業情報使用物品の譲渡・輸出入等行為 | 刑事 民事 | 企業情報を侵害して生産された物品を譲渡・輸出入等する行為を、以下の対象とする (民事)損害賠償や差止請求の対象 (刑事)刑事罰の対象 |
「処罰範囲の整備」については、携帯情報端末の普及やクラウド利用の拡大等、IT環境の変化に対応することで、現在の社会環境に見合った処罰範囲の再定義を目的としています。具体的には、以下の通りです。
企業情報窃取等の未遂行為 | 不正アクセス等の電子的な攻撃による企業情報窃取や転売等の未遂行為も刑事罰の対象に追加する |
転々流通した企業情報の転得者 | 不正に取得されたことを知って営業秘密を取得した者による使用や転売等を刑事罰の対象とする (現行は、営業秘密を不正に取得した行為者からの直接の取得した者のみが刑事罰の対象) |
営業秘密の海外における取得行為 | 日本企業が国内で管理し、海外で保管する情報を不正に取得する行為も処罰対象に追加 (例:海外サーバーに保管されている営業秘密の取得行為等) |
改正案の内容に基づく考察
昨年の一連の事件の後、世間の営業秘密に対する関心が高まり、今回の法改正に至ったわけですが、色々なセミナーや講演を聞く限り、この改正案も、かなりギリギリまで議論されていたようです。
「抑止力の向上」については、まず、罰金の金額を引き上げるだけでなく、犯罪収益の没収を追加することで、営業秘密の不正な開示や取得による利益や報酬がどんなに大きくなっても、いわゆる「やり得」とならない様にしたことです。もちろん、他の犯罪と同様、刑罰を重くしても不正行為はなくならないとは思いますが、少なくとも罰金を支払ってもまだ手元に金銭が残る、という状況は解消できると思います。
また、立証負担の軽減策として追加された営業秘密の使用を推定する規定について、現行法では被告が営業秘密を不正に使用していることを被害企業である原告側が立証する責任を負いますが、改正案では条件を満たせば被告が営業秘密情報の不使用を立証しなければならなくなります。実際問題として、営業秘密の不正使用を示す証拠の多くは被告側にあることが想定されるので、原告の負担軽減にはなりますが、一方で、原告の営業秘密に頼らずとも新製品の開発・生産が可能になるケースもありうるので、この推定規定については過度に濫用されることの無いよう、注意した方が良いと思います。
「処罰範囲の整備」については、IT環境の進化が大きな背景になっています。クラウドの勝等を反映して、海外設置サーバーに格納された情報も国内法の対象とするのが典型的な例です。また、未遂行為も刑事罰の対象になるとのことですが、未遂行為をどう定義するのか、例えばベネッセの事件の様に、私物のスマートフォンをPCに接続した場合は未遂行為となってしまうのか、といった具体的な内容を今後詰めていく必要があると考えます。
いずれにしろ、法制度が対象とするのは不正行為が起こった後の話であるので、企業としては先に経済産業省から発表された「営業秘密管理指針」に則って、営業秘密を適切に管理し、漏えい防止に向けた対策を効果的に行うことが必要となります。
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