作成日:2014/6/29
更新日:2014/6/30
先日、内閣府より今年度版の防災白書が公開されました。今回はその中でも業務継続計画(BCP)の策定状況について注目してみます。業務継続計画(BCP)は東日本大震災の際に非常に話題になりましたが、震災後3年を経てどのような状況にあるか確認するとともに、今後の方向性についても検討してみます。
防災白書における統計データ
まず、今年度の防災白書に掲載されている統計データを確認してみましょう。企業規模別に見た業務継続計画の策定状況は以下の通りです。
アンケート調査の結果、「策定済み」及び「策定中」と回答した企業は、大企業で約7割、中小企業で約4割となっています。この数値は過去の調査から継続的に伸びています。一方で、前年と比較して大企業、中小企業ともに、「策定予定」と回答した企業は減少し、「予定なし」と回答した企業は増加しています。つまり、震災直後は業務継続計画を策定しなくては、と考えていたが、時が経つにつれ、計画策定やめてしまった企業が少なからず存在することが伺えます。また、「業務継続計画を知らない」と回答した企業も増加しており、早くも意識の風化が始まっていることを示唆していると考えられます。
次に策定した業務継続計画を維持管理する業務継続マネジメント(BCM)の実施状況について、以下の通りとなっています。
企業規模に関わらず、4~5割が経営層の決定事項となっています。一方で、大企業では3割弱、中小企業では4割弱が「BCMには取り組んでいない」と回答しております。つまり、業務継続計画(BCP)は策定したが、その後の見直し等の活動は行っておらず、計画自体が陳腐化している可能性がある企業が相当数存在する可能性があると思われます。
業務継続計画(BCP)の策定を妨げる要因
上記の通り、業務継続計画(BCP)を策定する企業は増加する一方で、策定自体を予定していない企業も増加しております。その中には、策定を計画していたが取り止めた企業も含まれていると考えられます。それでは、業務継続計画の策定を行わない理由はどこにあるのでしょうか。平成22年3月に内閣府より発表された「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」によれば、以下の理由が挙げられています。
- 大企業では、「法令・規制等の要請がない」「策定に必要なスキル・ノウハウがない」を挙げた企業が約43%であり、次いで「策定の効果が期待できない」が約34%、「策定の費用が確保できない」「代替オフィス等の対策経費が確保できない」「策定する人手を確保できない」といったコスト面での理由が約20%となっています。
- 中小企業では、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」を挙げた企業が約60%と最も多く、次いで「策定する人手を確保できない」が44%、「法令・規制等の要請がない」が36%となっています。
- その他、外的な要因として「顧客、取引先からの要請がない」「国や自治体の入札要件にない」、内的な要因として「経営層がBCPの重要性を認識していない」といった理由が挙げられています。
制度的な要求がないという理由で業務継続計画を策定しない企業が多いのですが、そもそも業務継続計画はそれぞれの企業が何らかの脅威に直面した際にどう行動し、ダメージを最小化するか、という規範になるので、重要な社会インフラを担う企業でなければ制度的に求められる性格のものではないと考えます。また、コスト面で対応が難しいと考えている企業も多いのですが、まずは残った設備でどう切盛りするかを検討すべきであるので、「業務継続=莫大なコスト」という考え自体が、スタート地点を誤っている気がします。
東日本大震災の影響で注目されていることから、防災計画と同一視されがちな業務継続計画ですが、その対象はもっと広範囲であり、例えば本社ビルの火災や、社内でのインフルエンザ蔓延による従業員の自宅待機、といった、自社のみが脅威に直面するケースにも適用されます。もし業務継続計画が存在しない場合、継続業務と早期復旧の手順が場当たり的にされてしまい、スムーズな復旧ができないばかりでなく、顧客離反を招く可能性もあります。
過去の経験上、業務継続計画に積極的な姿勢を見せるのは、過去に何らかの脅威に直面した経験のある企業が多く、そうでないと脅威に直面した場合の混乱のイメージがつかない、今すぐ必要か疑問である、といった理由で優先度が低く設定されているように見受けられます。また、業務継続計画を作成したことに満足して、定期的な訓練を怠る、何年も見直しを行わない、といったケースも散見されます。例えば避難訓練を行ったところ、避難経路としていた通路が、日常は防犯上の理由で施錠されていて避難できなかった、ということもあります。もし訓練を行わないまま避難活動が行われたら、犠牲者が発生する可能性もあったところです。
自社の業務継続計画が策定されていない状況であるならば、今一度業務継続計画について必要性を検討してみてはいかがでしょうか。また、計画策定後見直しを行っていない企業も、同様に、再度内容を確認してみてもいいと思います。
業務継続計画(BCP)と地域コミュニティとの関連
防災白書に話を戻すと、今年度は「共助による地域防災力の強化」をテーマに特集が組まれています。災害に直面した際に自助・共助・公助という考え方があります。
- 自助:自分自身で自ら(家族も含む)の命や身の安全を守ること
- 共助:近隣や地域コミュニティで相互に助け合って当該地域を守ること
- 公助:行政や警察、消防、及びライフラインを支える各社による公的支援活動
前々から公助には即時性が十分でなく、被災後最低3日間は自力で持ちこたえることを求められていましたが、東日本大震災では行政機関自体が被災し、行政機能が麻痺してしまいました。今後も大規模な広域災害では同様の事象が発生することが考えられることから、共助による地域コミュニティレベルでの相互の助け合いが大きな役割を果たすことになると考えられています。その共助において、地域の企業や事業者との連携が重要視されています。企業や事業者においては地域住民よりも堅牢な建物を有する、通信設備が整備されている、といった優位性があるため、地域の災害対応や復旧の一時的な拠点となりうる存在ですが、どのような事象が発生した場合に相互がどのように対処するか日常的に話し合うことが肝要と考えられます。
現時点でも、アンケート調査を行った企業の3割弱が地域コミュニティと何らかの災害時対応協定を締結しており、CSRの観点も含めて、今後さらに増加していくことが予想されます。
このように「共助」の考えに基づく地域コミュニティとの連携について、地域の行政機関と進めるとともに、自社の業務継続計画にも反映させることが必要になってきます。
上記内容に関する相談や問い合わせについては、問合せフォームにてご連絡ください。
デルタエッジコンサルタントでは、業務継続計画(BCP)に関して、
・業務継続計画(BCP)の策定/改訂
・BCPを維持管理するためのマネジメントプロセス(BCM)の整備
・BCPの妥当性を評価し、定着化させるための訓練計画策定と実施
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