作成日:2015/8/5

東芝は7月20日に不適切会計問題に関する第三者委員会の調査報告を受領後、7月29日に対応状況を発表しました。内容は以下の4項目です。
1.取締役及び執行役に対する人事上の措置
2.経営刷新委員会の委員長と委員の選定
3.再発防止策の検討状況
4.米国における訴訟対応
今回はこの内容について確認していきます。

「1.取締役及び執行役に対する人事上の措置」について

東芝では7月21日に田中社長を始め8名の取締役が辞任しましたが、新たに執行役1名が辞任し、室町会長兼社長ら取締役8名、執行役8名の役員計16名が報酬の20~40%を3か月間返上すると発表されました。また、第三者委員会報告書に記載されている幹部従業員等の関与者に対する人事上の措置を検討するということです。なお、今回報酬を返上した執行役はざっと確認したところ、不適切会計の行われた部門の関係者の様です。
東芝としては第三者委員会報告書を基準として、報告書に記載されている範囲で関与者を特定しようと考えているようです。果たしてそう考えることは妥当なのでしょうか。第三者委員会の調査は2か月という限定された期間で実施されたものであるため、すべての関与者が特定されていない可能性もあると思います。
また、処分対象となった執行役について、今回の報酬返上で禊を済ませたと考えているかもしれません。さすがに9月に予定されている株主総会には名前が出てこないでしょうが、来年には取締役に昇格する方が、数年後にはこの中から社長になる方が出てくるかもしれません。もちろん、今回の処分対象者の全員が不適切会計問題に関与していたとは断言できませんが、徹底的に調査を行い、少しでも関与を疑われる者が将来会社の頂点に立つことの無いよう、対処することが重要だと考えます。

「2.経営刷新委員会の委員長と委員の選定」について

東芝は経営体制、ガバナンス体制、再発防止策等を検討する経営刷新委員会の設置をアナウンスしていましたが、この日の発表で経営刷新員会を構成する委員を発表しました。委員は6名で、委員長を含む4名が東芝の社外取締役、残り2名は外部の公認会計士と弁護士という構成となっています。この他に、経済同友会代表幹事と元最高裁判事で弁護士の2名がオブザーバーとして参加します。
果たして、このメンバーで対処できるのか、というのが正直な印象です。委員会の過半数が、不適切会計を認識できなかった社外取締役で構成されています。つまり、問題が発覚する前から東芝の不十分なガバナンス体系を支えてきた方々と言ってもいいと思います。社長月例の資料が配布されていない等、十分に情報を与えられていなかったかもしれませんが、逆にそうした資料を要求すれば入手できた方たちでもあります。そういった方々が果たして抜本的な改善案を提示することができるでしょうか。それは自分たちが社外取締役として十分な責務を果たせませんでした、と主張することにも等しくなる可能性があります。
東芝社内では納得できる改善案になるかもしれませんが、対外的には満足できる案にはならないかもしれません。しかし、今必要なのは、対外的に東芝が真っ当な会社に生まれ変わることができるという印象を与える改善案だと考えます。

「3.再発防止策の検討状況」について

東芝が7月29日時点で検討、実施している再発防止策として6項目が提示されています。
「チャレンジ」で話題となった社長月例は廃止し、キャッシュフローを中心とした実績を基に、将来の業績改善に向けた討議を行う業績報告会を実施する、とありますが、その討議が数字を追求するだけの内容だと「チャレンジ」の再来にもなりかねません。目標数値を高く掲げることは企業が成長する上で必要ですが、数字だけを見ているとこれまでと変わらない、ということになります。目標値が達成できなくても原因を解明し、改善策を検討した上で次の目標値を設定するというサイクルを築くことができるかどうかが課題だと考えます。
また、社外取締役のチェック機能が働かなかった原因の一つに、社長月例資料の非共有がありましたが、今後は業績報告会の資料を共有するということです。これも社内で別の会議体が立ち上がったり、資料が内部用、役会用と2種類作成されたりすることの無いよう、先祖返りを起こさない抑止力が必要ではないでしょうか。

「4.米国における訴訟対応」について

こちらについては、まだこれから、という認識の様です。

最後に

東芝の不適切会計問題は、

  • 利益至上主義に基づく目標必達のプレッシャー
  • 上司の意向に逆らうことができないという企業風土

に原因があるとされていますが、前回にも述べた通り、どこの企業でも当てはまる内容です。もちろん、3日間で120億円の利益を上げるという「チャレンジ」は行き過ぎですが。
私が考える東芝の問題点は、

  • 目標必達のために事業活動ではなく、数字を操作することで見せかけの目標達成という手段を選択した事業部門
  • 現実の目標未達の数字ではなく、見せかけの目標達成の数字を見ることを選択した経営層

の双方の心理にあり、しかもこれに歯止めをかける抑止力が皆無だったことが問題だと考えます。よって、こうした意識を変えることは、東芝社内の自浄努力だけでは困難であり、抑止力としての株主や規制当局等の社外からの圧力、あるいは外部から招聘した人材に頼らざるを得ないのでは、と考えます。
そして東芝のこの問題は、上記の様な心理状態になればどの会社にも起こり得ることかもしれません。そのような心理を抑止するガバナンス体系の構築が重要だと考えます。

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