作成日:2014/1/16

1月3日早朝、JR有楽町駅(東京都千代田区)付近で発生した沿線火災によって、付近を走行するJR各線や近隣の商業施設に影響がありました。火災が発生したのは1月3日午前6時半ごろ、有楽町駅に隣接するビルから出火しました。その約9時間後の午後3時31分に消火が完了しました。

今回の火災で最も影響が大きかったのは、実質的に全線(東京~新大阪)でほぼ運行停止となった東海道新幹線でした。特に東海道新幹線の品川駅は平成15年に開業する際、災害時に東京駅を代替する「サブターミナル拠点」になると期待されていましたが、今回はその期待値を大幅に下回ったのでは、と思います。

 

対応状況から導出される課題

以下に各種報道に基づく対応状況を時系列にまとめてみました。

06:30過ぎ東京~品川駅間で運転を見合わせ
(下り)東京06:43発のぞみ号以降、運転見合わせ
(上り)東京07:20着こだま号以降、新横浜駅以遠の各駅で運転見合わせ
10:00過ぎ品川駅での折り返し運転開始。(30分に1編成程度)
11:55頃全線で運転再開、大幅なダイヤ乱れ
翌02:00頃最終の新幹線が東京駅に到着

※山陽新幹線にも列車運休や運行遅れの影響あり

今回の火災は、リスク管理やBCPにおける代替業務への切換えや拠点移動といったテーマに通じると思います。対応状況から課題となるのは以下の2点になると考えます。
(1)  火災発生から品川駅での折り返し運転開始まで、およそ3時間半を要している。
(2)  品川駅での折り返し運転は30分に1編成程度しか対応できず。

 

 意思決定に関する確認のポイント

まず(1)について、以下の項目が計画されていた、または妥当だったかを検証する必要があると思います。

a)意思決定者を含む対応担当者が迅速に参集、または連絡可能な状態だったか。
b)情報連絡手段は適切だったか。
c)代替手段(今回の場合、品川駅の折り返し運転)適用の判断基準が定義されていたか。

a)について、火災が発生したのは正月3が日であったことから、上位の意思決定者と連絡を取り、参集するまでに時間を要した可能性があります。また、事業所の場所を確認するとJR東海の本社が名古屋と品川、新幹線鉄道事業本部が丸の内にあるようですが、どの拠点の誰が意思決定を行うか、代理の決定権者が定義されていたかを検証する必要があります。

b)について、意思決定を支援する重要な要素の一つとして、リアルタイムの情報収集があります。今回の場合は、a)で述べた東名本社と新幹線事業本部の相互で意思疎通を図るとともに、東京消防庁や、有楽町駅を所管するJR東日本、等との情報連携も必要になると思います。情報連携については平常時に連絡窓口や経路を定義しておくことが必要です。

c)について、災害時の意思決定は多くの場合、ある程度の損失を覚悟する可能性があります。しかし、その覚悟ができずに意思決定を遅らせると、更に大きな損失を被る可能性があります。よって、意思決定を支援する判断基準を事前に作成することが重要になります。

 

 拠点移動に関する確認のポイント

(2)についても同様に、事前に以下の事項について検証する必要があると思います。

d)品川駅の施設面に問題はなかったか。
e)品川駅への人員・物資の移動についてどこまで検討されていたか。

d)、e)に関連して、JR東海からは「乗務員の手配などに時間が掛かるため」という説明がされていたようですので、恐らくはハード面よりも、通常は東京駅で待機する人員や物資の移動について、課題があるように思います。人員については乗務員だけでなく、車内清掃のチームや社内販売の交代要員も配置する必要がありますし、これに伴って清掃道具やトイレットペーパー等の補充物資、車内販売用の弁当や飲料も移動させる必要があると思います。これについてはJR東海だけでなく、グループ企業(新幹線メンテナンス東海、JR東海パッセンジャーズ、等)も含めて検討する必要があると思います。

一方で、沿線火災による運転見合わせがすぐに解消されることを想定し、東京駅に待機する人員は温存しようと考えていた可能性があります。特に今回は正月3が日とUターンラッシュが重なり、業務量がピークに達することから、拠点移動を実施する労力や復旧の手間を考えると、待つほうが得策だということだったのかもしれません。その意味では、今回の火災は鎮火までの長さを考えると、JR東海にとって想定外のブラックスワンだったのかもしれません。

 

 まとめ

さて、今回のケースと同様、他の企業でも拠点移動をジャッジする事態に直面する可能性があります。例えば、情報システムのデータセンターが何らかの理由で使用できなくなった場合の、バックアップセンターへの切換えを行うケースです。今一度、拠点移動の手順書で以下の事項が明確に定義され、実施可能か確認してみてはいかがでしょうか。

・事象発生から意思決定者を含む対応担当者への連絡や参集が迅速に行えるか。
・社内、社外双方の情報収集や連絡経路は確保されているか。
・切換え適用の判断基準が定義されているか。
・切換え先の施設面に問題はないか。(入館等、セキュリティ面の対応を含む)
・切換え先拠点への人員の移動や、物資の確保について問題ないか。

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