先にも述べた通り、多くの企業で策定されている、地震等の自然災害に対応したBCPと、新型コロナウイルスなどの感染症に対応したBCPとでは考え方が異なります。

地震等の自然災害に対応したBCPでは発災時にゼロになった業務レベルを 「如何に最低限の業務レベルまで素早く復旧すべきか」 に取り組むことになりますが、感染症のBCPでは 「如何に最低限の業務レベルを維持できるか」 が重要となります。さらに加えて、局地的に発生する自然災害では可能である代替地での業務継続という選択肢は難しく、まさに「逃げ場がない」状態となります。また、感染症が収束するまでどのくらいの期間を要するか、予想ができません。感染症の被害対象は基本的に従業員等の人的資産のみとなります。よって、新型コロナウイルスが流行している期間に人的資産を損なうことなく、ウイルスの活動が収束に向かう際に際に素早く通常の業務レベルまで戻せるかが重要だと考えます。

(1)業務レベルの方針

業務レベルについては自社の状況と同時に社会全体の状況も含めて検討すべきです。つまり、自社の従業員の感染者がほとんど存在しなくても、取引先を含む社会全体の経済活動や社会活動のレベルが落ちている場合は、業務内容によってはせっかく出勤しても時間を持て余してしまうばかりでなく、ウイルス感染するリスクを増やしていることになるため、敢えて自社の業務レベルを落とす、或いは一時休業という選択肢も含めて考える必要があります。
以下に、感染状況と対応レベルの方針(例)を提示します。

感染状況と対応レベルの方針(例)

(2)出社状況のモニタリング

上記の例の様に、従業員等の感染者数を目安に業務レベルを決めるのであれば、前提として出社状況をモニタリングする必要があります。また、モニタリングの結果として業務レベルを移行する場合は、その通知手段を確保する必要があります。なぜならば、感染症の流行が始まった場合は既に感染症による欠勤者や観察期間に伴う自宅待機等の従業員も増え始めていることが想定されるからです。この場合、地震等の自然災害におけるBCPでも整備されている(であろう)安否確認の仕組みをうまく流用することで対応することが可能と考えられます。可能であれば、現時点から毎朝の検温や出社可否の情報を収集し、実用に耐えうるか確認するのもいいのではと考えます。

(3)事業継続の手段としてのテレワーク

現在、一般動向として出社することなく業務を実施可能なテレワークを推奨していますが、現時点でテレワーク環境が整備されていない、あるいは運用していない企業においては、慌ててテレワークに移行することはあまりお勧めしません。なぜならば、単純に自宅のPCにカメラを装着する等、安易な方法では混乱やトラブルが生じる、パフォーマンスが確保できない、といった状況になる可能性が高いと考えられるからです。
それでもテレワークの導入を望む企業に向けた基本的な留意点は以下の通りです。

テレワーク導入における留意点

  • 業務内容がテレワークで実施可能か

業務の内容や社会的な位置づけ、等を考慮し、自社の業務のうちどのくらいがテレワークに移行可能か検証すべきです。例えば、工場での生産業務や店舗での販売業務は当然ながら自宅でのテレワークに代替可能な業務ではありません。また、いわゆる社会的な重要インフラの対象となる電力、交通、物流、金融、医療などに関連する企業は通常通り出社して業務遂行する必要があります。
一方、テレワークに代替可能な業務であっても、作業に使用する資料、マニュアル、等がデータ化されていなければ、実際にテレワークに移行することは難しくなります。

  • テレワークに使用する端末は存在するか

現時点でノートPCやタブレット等を配布している企業であればハードルが低いのですが、従業員が自宅で保有するPC等を利用する場合は注意が必要です。当然ながら、企業内で決められた業務実施やセキュリティレベルを確保するためのソフトウェアが導入されていないことが多く、企業内の環境と同様の環境を構築するにはコスト(ライセンス料)と環境整備の労力(と前提としてのスキル)が必要となります。特に後者に関しては個々の従業員が対応せざるを得ないため、そこでのトラブル等の対応も必要になります。
また、企業内で使用するノートPCを自宅に持ち帰る場合は、社内規定の内容と照らし合わせて安全を確保可能な状況か確認する必要があります。

  • 安全な接続手段は確保されているか

意外と見落とされがちなのが通信手段、具体的に言えば、VPNなどの暗号化された通信手段の確保です。こちらも現時点で利用されているのならともかく、これから通信手段の調達を行って利用するとなると多大なコストと期間が必要になります。このような局面に直面すると、安易に家庭で現在使用している手近なネットワークを使うよう指示されることもありますが、それは問題です。家庭で使用するネットワークの大半は暗号化されていない通信回線であり、これを利用することは企業の情報が筒抜けになるばかりでなく、外部から従業員自宅の端末経由で社内ネットワークに侵入される可能性があるからです。恐らくは今も、そのような安易な接続を行っている端末を狙っているハッカーが数多く存在することが予想されます。例えば、集合住宅で用意されている共用の回線では、ハッカーが盗聴していることが何度も報告されています。
また、無料Wi-Fiを利用するために近隣のカフェ等で作業することも問題です。無料Wi-Fiはパスワード無し、または共通パスワードで運営されているため、簡単に盗聴可能です。それ以上に、近所とはいえ外出することは感染リスクを高めることであり、何のための在宅勤務か分からなくなります。
もう一つの観点として、回線の容量も考慮する必要があります。現在、テレワークやモバイルワークを活用している企業でも、外部からの通信は全従業員の数割程度だと想定されます。これをいきなり全社員がテレワークに移行となると、全社員が同一時間帯で企業ネットワークに接続するため、回線容量が足りなくなる可能性があります。さらに加えて、テレビ会議システムを導入すると、通信料は格段に増加することになります。

  • セキュリティ設定の変更は妥当か

テレワークを慌てて導入した場合、社内のセキュアなネットワークに対して外部から接続する出入り口を構築する必要があるため、その部分のセキュリティ設定について変更の有無や、セキュアな状態を保つための変更内容について確認する必要があります。これを安易に「緊急時だから」という理由で接続可能にする設定変更しか行わないという動きも散見されがちです。こうした状況を社外のはかーは狙っているものです。セキュリティの設定については緩くすることは厳禁です。

(4)重要業務の選定

感染症が流行してBCPが発動される局面とは、稼働可能な従業員が急速に減少する状況になります。感染者、あるいは感染の疑いのある者は出社できないのは当然ですが、残された従業員も感染リスクを抑えるため、その日その日の出社対象者をできる限り抑えることが必要となります。そのため、最小限の人数で事業活動を遂行できるよう、業務内容の絞り込み(重要業務の選定)や業務実施体制の変更が必要となります。
業務内容の絞り込みについては、感染症が流行しているという事態を鑑み、その中で取引先や顧客、あるいは社会全体が自社に対して何を求められているのかを適切に識別することが重要です。よくある間違いの例として、
・自社の主力となる製品やサービス
・売り上げの高い製品やサービス
・経営陣等の思い入れ
といった観点で選定するケースもありますが、それが感染症の流行時に本当に求められていることなのかを見極めることが必要です。
業種共通的な重要業務の例としては、以下が考えられます。
・経理部門:対外的な支払業務
・総務部門等:BCPの運営等
・販売部門、営業所、等:顧客サポートや問い合わせ業務
・IT部門:社内システムやネットワークの安定稼働

(5)事業継続時の体制

上述の通り、感染症BCPの発動後は稼働可能な従業員が限られているため、通常の体制では業務実施が困難です。そのため、限られた業務を最低限の人員で実施可能とするための体制変更等が求められる場合もあります。テレワーク以外のアイデアとして、以下の様な例が考えられます。

a)複数チーム制
部門やチームの人員を幾つかのチームに分割し、交代で業務に当たるようにする
仮にある時点での業務実施者に感染者が発生しても、別のチームが運営可能とすることで業務が停止することの無い様に対応する

b)部門・拠点統合体制
部門や拠点の人員が限られている場合は、他部門や近隣の拠点を統合して業務に当たる
特定のエリアでの感染者数が急増した場合、当該エリアの拠点を閉鎖し、近隣の拠点に合流して業務を実施する

c)他拠点での勤務

テレワーク等の自宅勤務が難しい場合、住所から近い拠点(営業所、サテライトオフィス、等)での勤務を行う

部門や拠点での感染者発生や、当該地域での感染者数急増が予想される場合、一時避難の意味で他拠点に移動して業務を実施する

d)関連会社支援
自社の業務継続に必要不可欠な関連会社の稼働が危うい場合、その支援のために自社の人員を派遣する

e)一時休業
感染症の流行が最悪の局面を迎え、かつ自社の業務実施の重要性が高くない場合、感染リスクが低下した際に業務を再実施できるよう、思い切って一時的に休業することも考慮すべき

今後、しばらくは新型コロナウイルスの対応が求められることが予想されます。現在では感染すると死に至る可能性があり、治療法や特効薬がない状況なので、どうしても事業運営上の制約が大きくならざるを得ない状況です。それでも慌てることなく冷静に、目の前の事実をしっかりと把握し、適切に対処するで、最悪の状況に向かうことなく、動きを能な限り抑えることができると考えております。

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