作成日:2014/9/9

現在、国内では戦後初となるデング熱の国内感染と感染者の拡大、海外では西アフリカにおけるエボラ出血熱の大流行が連日話題となっています。
こうした感染症については、例年は冬期におけるインフルエンザの大流行を警戒するケースが多いのですが、昨今の地球温暖化の影響や海外との人的交流の増加、等に伴い、その他の感染症についても考慮しなければならない時代となってしまったのかもしれません。
また、感染症が流行した場合、インターネット上で誤った情報が流布しがちであり、時にはパニックを誘発する可能性もあります。感染症について正確な知識を獲得した上で、適切に対処することが重要なポイントとなります。
今回は感染症の概要と、企業として対処すべきポイントについて確認します。

感染症の概要

感染症とは、ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入し、増殖することでもたらされる病気の総称です。日本では感染症の予防や患者への対策を図るため、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症法」)が制定されています。感染症法では症状の重さや病原体の感染力などから、以下の様に感染症を分類しています。

分類
感染症定義
一類感染症エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱感染力や罹患した場合の重篤性などに基づく総合的な観点からみた危険性が極めて高い感染症
二類感染症急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS)、鳥インフルエンザ(H5N1)感染力や罹患した場合の重篤性などに基づく 総合的な観点からみた危険性が高い感染症
三類感染症コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス感染力や罹患した場合の重篤性などに基づく総合的な観点からみた危険性は高くないものの、特定の職業に就業することにより感染症の集団発生を起こしうる感染症
四類感染症E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、デング熱、鳥インフルエンザ(鳥インフルエンザ(H5N1)を除く)、ボツリヌス症、マラリア、野兎病、等人から人への感染はほとんどないが、動物、飲食物などの物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与えるおそれのある感染症
五類感染症インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く)、ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、梅毒、麻しん、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、等国が感染症発生動向調査を行い、その結果に基づき必要な情報を国民や医療関係者などに提供・公開していくことによって、発生・拡大を防止すべき感染症
新型インフルエンザ等感染症新型インフルエンザ再興型インフルエンザ新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザかつて世界的規模で流行したインフルエンザ
指定感染症既知の感染症の中で、一~三類に準じた対応の必要が生じた感染症政令で指定され、1年限定
新感染症中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザ(H7N9)人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもの

(厚生労働省、国立感染症研究所ホームページに基づきデルタエッジコンサルタントで作成)
現在話題となっているデング熱は四類感染症、エボラ出血熱は一類感染症となっております。

デング熱の概要

デング熱は蚊が媒介するデングウイルスによって起こる感染症であり、媒介する蚊の存在する熱帯・亜熱帯地域で発生します。なお、デングウイルスはヒトからヒトへ直接感染することはありません。また、野生動物に感染することもないようです。


デング熱・デング出血熱の発生地域(国立感染症研究所ホームページより)
デング熱・デング出血熱の発生地域

デングウイルスに感染した場合、多くは3~7日の潜伏期間の後に発症します。デング熱に対しては対症療法が主体であり、有効な抗ウイルス薬は現時点で存在しませんが、一般に1週間前後で回復します。ただし、重度のデング出血熱に発展した場合、適切な治療が行われないと死に至る場合もあります。
今回、国内感染による発症が報告されましたが、海外で感染し、帰国後に発症する輸入症例は毎年200例前後報告されています。

デング熱発症者数

今回のデング熱の国内感染の状況(2014/9/8現在)

今回のデング熱の国内感染ですが、発症者の発生状況は以下の通りです。
デング熱の国内感染症例の発生状況
現在のところ、デング熱に感染した国内に入国した外国人、または帰国した日本人の血を吸った蚊が、新たに感染させたと考えられています。ただ、これだけ多くの感染者がいるということは、感染源は一人とは考えにくいです。もしかしたら、もっと以前にデングウィルスが持ち込まれており、ヒト→蚊→ヒト→蚊・・・という連鎖が行われていたかもしれません。デング熱は先に述べたように1週間前後で回復することから、医者に行かずに回復したり、海外渡航歴がないために検査が行われず、報告がされなかったケースもあり得ます。
また、時期的には夏休み期間でもあり、代々木公園や近隣の代々木体育館では連日のようにイベントが行われており、訪れる人が多かったことも要因になると思われます。

(参考)代々木公園の2014年8月イベント(代々木公園ホームページに基づき作成)
日程イベント
2(土)3(日)アセアンフェスティバル2014
3(日)アースデイマーケット
6(水)うた会 〜2014夏〜
9(土)10(日)ユーロフェス2014
16(土)17(日)カリブ中南米フェスティバル2014
18(月)PEDAL DAY 2014
19(火)灼熱!マチャドナミーフェス
23(土)24(日)明治神宮奉納原宿表参道元気祭スーパーよさこい2014
30(土)フリーマーケット
30(土)pipes of piece vol.31
31(日)大江戸骨董市

エボラ出血熱の状況(2014/9/8現在)

エボラ出血熱についても簡単に触れておきます。
エボラ出血熱は、エボラウィルスによる全身性感染症です。エボラウィルスは感染した野生動物の体液からヒトに感染し、感染したヒトの体液(血液、分泌物、吐物・排泄物、等)に触れることでヒトに感染によって広がります。潜伏期間は2日から最長3週間であり、集団発生において致命率は90%にも達することがあります。エボラウィルスに対する認可されたワクチンはなく、重症例に対しては、集中的な支持療法が必要です。
エボラは、1976年にスーダンとコンゴで初めて発生が確認されました後、20回を超えるアウトブレイクが報告されてきました。今回の西アフリカにおけるアウトブレイクは2014年3月にギニアでの集団発生から始まり、住民の移動によって隣国のリベリア、シエラレオネへと流行地が拡大し、過去最大の流行となっています。現時点で死者は2000人を超えており、今後も増え続ける見込みです。なお、WHOは2014年8月8日に本事例に対してPHEIC(Public Health Emergency of International Concern、国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態)を宣言しています。

エボラ出血熱の発生状況(2014/9/5現在)
種別感染者死者致命率
広範囲に発生Guinea81251764%
Liberia1871108958%
Sierra Leone126149139%
合計3944209753%
局所的に発生Nigeria22836%
Senegal100%
合計23835%

出典:WHO: Ebola Response Roadmap Situation Report 2, 5 September 2014

感染症リスクによる企業活動への影響

今回のデング熱については、ヒトからヒトに直接感染することはないため、仮にオフィスに感染者がいたとしても、他の従業員に感染することはありません。オフィスに蚊がいる場合は駆除することぐらいではないでしょうか(オフィス内に生息する蚊は、デング熱を媒介しないイエカだと思いますが)。
今回のデング熱の国内感染や海外のエボラ出血熱が日本国内の企業活動に影響を与えることは考えにくいですが、ここで事業継続の観点から感染症リスクについて考えてみます。
感染症リスクの特徴として

  • 地震や火災と異なり、社屋や工場、情報システム、ライフラインに対する物理的破壊の可能性は皆無
  • 人的被害が主になるが、その影響は感染症の内容や広がりによって変動する
  • 人的被害が大きくなり、長期化することで、自社の活動やライフラインの稼働に影響する可能性がある

災害等による業務復旧とパンデミックによる業務復旧のイメージを以下に提示します。ただし、このイメージは感染者の大半が回復することを前提にしています。致死率の高い感染症の場合はこのイメージよりもさらに稼働が低下し、長期化すると考えられます。


パンデミックによる業務復旧イメージ

パンデミックの業務継続計画(BCP)を検討する際、従業員の欠勤率をどのように想定するかが課題の一つとなりますが、概ね30~50%程度としているケースが多いように思われます。なお、かなり以前ですが、米国でパンデミックを想定した訓練が行われたことがあります。その際の訓練シナリオを提示するので、参考にしてください。


パンデミック訓練シナリオ(例)

感染症リスクによる業務継続計画(BCP)のポイント

感染症リスクについては先に述べたように、地震等の災害リスクと異なり、業務レベルが急激に低下することはなく、徐々に低下していくと思われます。しかしながら、その過程で対応を誤ったり、遅れたりした場合は、最低限の業務レベルを支える人的リソースが不足する事態になりかねません。以下にいくつかのポイントを取り纏めました。
1.感染症の情報把握
感染症と言っても冒頭に提示した通り、様々な種類があります。まずは感染症の種類とその特徴(感染経路、症状、等)や防止策(ワクチンの有無、感染者への対応、等)を正確に把握し、パニックに陥らないことが重要です。
2.情報収集と臨機応変な対応
感染症リスクの場合、感染症の種類や拡散状況はケースバイケースであり、その対応も変わってきます。外部情報(WHO、厚生労働省、等)を適時収集するとともに、社内についても従業員の感染状況や出社状況(従業員本人が感染していなくても、家族が感染することで出社が難しいこともあり得ます)をタイムリーに把握することが重要です。例えば、災害時の安否確認システムを流用することも検討していいと思います。
場合によっては、WHO等が宣言する前に、パンデミック時の業務体制に移行する判断も必要になります。
3.緊急時体制への移行
基準となるのは、WHO(国際保険機構)のPHEIC宣言や政府による緊急事態宣言ですが、上記の通り、社内の感染状況に応じて早めの対応を行うケースもあり得ます。また、災害時も同様なのですが、特に感染症では無差別に感染することから、健常者がスムーズに指揮できるよう、危機管理体制のトップの序列等を明確に決めておく必要があります。
4.海外拠点の対応
海外拠点において感染症リスクが高まった場合は、帰国するか現地にとどまるかの判断を強いられます。直行便が少ない地域の場合は、迂回経路や空路以外の手段を含めて検討する必要があります。一方で、感染症の流行が始まっている場合は出国が制限されたり、帰国しても水際対策の一環で停留や隔離されたりする可能性もあります。また、混雑した空港では感染する可能性も高くなります。そのため、現地に留まってやり過ごすことも選択肢とする必要があります。そのために、拠点や拠点先の自宅に薬品や食料の備蓄しておくことも必要です。特に医療体制が不十分な拠点であれば、使い捨ての手袋等も備蓄する必要があります。

今後、様々な局面で様々な感染症によるリスクが高まってくることがあると思います。また、例年の様にインフルエンザの対応もこれからになります。それでも慌てずに、目の前の事実をしっかりと把握し、適切に対処することで感染症によるリスクを可能な限り抑えることができると考えております。

 

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・BCPの妥当性を評価し、定着化させるための訓練計画策定と実施
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