作成日:2014/12/4

日本の自動車部品メーカーであるタカタ株式会社のエアバッグによる自動車のリコール問題が米国で社会問題化し、同社への風当たりが強まっています。米議会も本格調査に乗り出し、米当局はタカタに対し、運転席エアバッグの全米規模リコールを命じております。国内でも国土交通省が対策本部を設置するなど、対応に追われています。
このタカタ社製エアバッグのリコール問題がここまで大きくなってしまったのは何故なのか。必然なのか、対応に問題等がなかったのか。現在進行中の問題なので情報が流動的なのですが、入手できる範囲の情報で確認してみます。

これまでの経緯

タカタ社製エアバッグに関する今回の問題について、その経緯をまとめてみました。
(報道機関各社の報道内容をもとにデルタエッジコンサルタントで取り纏め)

時期
概要
2000年~2002年タカタ社の米国およびメキシコの工場で問題のあるエアバッグを生産、出荷
2008年11月ホンダ、米国で約4千台をエアバッグの問題でリコール
(ガス発生剤の加圧/吸湿防止措置が不適切)
(ガス発生剤組付け作業が不適切)
2009年米国でエアバッグの不具合により2件の死亡事故発生
2013年4月各自動車メーカー、世界で約400万台をリコール
(ガス発生剤の加圧/吸湿防止措置が不適切)
2014年6月各自動車メーカーが追加リコール、対象車両は世界で約900万台
(ガス発生剤の加圧/吸湿防止措置が不適切)
米国の高湿度地域限定での調査リコール(原因調査中)
2014年8月7日タカタ社、リコールの影響により2015年3月期は純損益240億円(前期比-400億円)の赤字見通しとする業績予想修正を発表
2014年8月~10月各自動車メーカーが追加リコール
(インフレータにおける仕切り板の異品組み付け)
2014年10月タカタ社エアバッグの問題を米連邦検察当局が捜査していると米紙が報道
2014年11月6日タカタ社、第2四半期報告書にて、2015年3月期は純損益250億円の赤字見通しと再修正
米New York Timesが、内部告発によるタカタ社の事実隠滅を報道(タカタ社は否定)
2014年11月14日ホンダ、追加リコール
(ガス発生剤の吸湿防止措置が不適切)
→トヨタ、ダイハツも追随
2014年11月20日米上院、公聴会でタカタ社やホンダなどを聴取
2014年11月21日国土交通省、局長をトップとする対策本部を設置
2014年11月26日米高速道路交通安全局(NHTSA)、調査リコールの対象を高湿度地域限定から全米に広げるようタカタ社に命令(12/2期限)
2014年12月3日米下院公聴会

上記の結果、タカタ社製エアバッグの不具合に関連するリコール対象台数は、全世界で1600万台を超え、国内でも260万台を超えています。国内での改修率は約64%(平成26年10月末時点)に過ぎません。
NHTSAが要求しているリコール対象の拡大に対応した場合は、リコール対象台数は2000万台を超えることになります。

タカタ製エアバッグ問題におけるポイント

これまでの経緯を確認していく中で、今回のリコール問題でポイントとなるのは以下のように考えます。

1.原因の特定が不十分
2.リコール規模
3.リコール対応の限界
4.エアバッグ製品の特性
5.エアバッグ製品欠陥の把握時期

以下、個別に確認していきます。

1.原因の特定が不十分
タカタ社と各自動車会社はこれまで、エアバッグの欠陥は製造工程に起因しているとしてきました。国土交通省に提出されたリコール届け出の内容を確認すると、以下の通り製造工程に起因する内容ばかりでした。

  • インフレータ内のガス発生剤の成型工程が不適切(加圧不足)
  • ガス発生剤の成型後の吸湿防止措置が不適切
  • インフレータ内のガス発生剤を組付け作業が不適切
  • インフレータにおける仕切り板の異品組み付け

このリコール対象となったインフレ―タは、2000年から2002年9月にタカタの新設されたメキシコ工場にて製造された部品でした。当時、エアバッグの需要が急増しており、生産拡大に注力するあまり、品質管理がおろそかになってしまったことが想定されます。
しかしながら、今年の6月に米国で調査リコール対処となったのは2003年から2007年に製造されたエアバッグであり、高温多湿な地域で長期間使用された場合に不具合を発生する可能性が指摘されています。(経緯一覧の赤字部分)
先日の公聴会では、タカタ社は以下の3つの要因が複合的に作用している可能性が高いと主張しています。
1)機器の使用期間(the age of the unit)
2)多湿状況下での継続的使用(persistent exposure over time to conditions of high absolute humidity)
3)潜在的な製造上の問題(potential production issues)
また、タカタ社の調査でエアバッグ事故のほとんどは多湿地域で、少なくとも6年以上使用された製品であること、多湿地域以外から回収したインフレータに破裂したものはないこと、等を説明していました。(参照:タカタ社ホームページ、「米上院商業科学運輸委員会の公聴会について」※現在は非公開)
この内容だと、タカタ社は原因を究明したとは言い切れず、リコール対象を高温多湿地域に特定する理由についても、他地域での事故実績が皆無だから、という現状を示しているに過ぎません。

2.リコール規模
上記の理由から、タカタ社はリコール範囲を多湿地域に限定することを主張していますが、NHTSAは、多湿地域以外でも事故の実績があることから、全米規模でのリコールを行うよう命令しています。これは、タカタ社が根本的な原因を究明しきれず、高温多湿地域以外で走行する自動車に事故が発生しない理由がないことも影響していると考えます。また、高温多湿地域とそうでない地域とを行き来する自動車はどうするのか、という問題もあると考えます。
なお、追加リコールの対象は数百万台規模になりますが、リコールを行わなかった場合、NHTSAはリコール対象車量1台につき最大7000ドルの罰金支払いにつながる「手続きを開始する可能性がある」としています。また、当該手続きによって1企業に科すことができる罰金の上限は3500万ドルに設定されていることから、米運輸省は上限額を3億ドルに引き上げるよう議会に求めているようです。

3.リコール対応の限界
タカタ社、及び各自動車会社が全米規模でのリコールを行った場合、米国だけで数百万台の自動車が追加対象となります。一方で、タカタ社は交換用製品を来年2月までに150万個生産する計画を明らかにしています。よって、すべてのリコール対象車両に交換用のエアバッグやインフレータが行き渡らないのは明らかです。
また、他社のインフレータの適用可能性について、様々な意見が報道されていますが、流用は限定的では、と考えられています。近年では車両のレイアウト、衝突センサーの性能、エアバッグ装置の容量や形状、等について車両を製作する自動車会社とエアバッグ製造会社で設計上の調整を行っていることから、単純に他社製品を置き換えることは難しいと考えられます。
エアバッグのメーカーは少数の企業に集中しており、トップのオートリブ社(スウェーデン)は市場シェアの約35%、続いてタカタ社、TRW社(アメリカ)がそれぞれ20%程度を占め、残りの約25%は中規模メーカーが分け合っている状況です。競合メーカーにとってはチャンスなのですが、生産を増強したとしてもリコール対象をカバーするまでには及ばないと考えられています。

4.エアバッグ製品の特性
最大のポイントとして考えられるのはエアバッグ製品そのものの特性だと考えます。エアバッグ製品は事故から人命を救うための製品です。エアバッグ事故の発生頻度としては何千万台もの自動車のうちの数えられるくらいの件数であり、非常に少ない頻度ではありますが、人命が関わる以上、製品不良が起きることは消費者にとって許容できないでしょう。
もちろん、不良品や誤作動が0件という製品を製造することはほとんど不可能です。よって、設計や製造過程での不適切な行為はもちろん、自動車に組み込まれ、販売された後もエアバッグが本来の機能を維持し続けるための仕組みを考えなければならないでしょう。

5.エアバッグ製品欠陥の把握時期
米ニューヨーク・タイムズ紙の報道で、元従業員の内部告発として、タカタ社は2004年の時点で自社エアバッグ製品の危険性を認識していたが、その内容を隠ぺいしていた音が指摘されています。
タカタ社はこの記事内容を否定するとともに、公聴会でも2005年に事故の報告を受けて調査を開始したと主張しています。情報隠ぺいが事実か否か不明確な状況が、消費者の不安をさらに強めかねません。

タカタ社の今後の対応について

今回のリコール問題ですが、リコールを申請するのは自動車会社であり、部品製造業者であるタカタ社としては主体的に動けないところもあったかもしれません。しかし、印象としては、情報開示が少なく、対応が後手になっている感じがします。このような事態を収拾すべく、タカタ社が今後すべき対応としては、以下の通りだと考えます。

a.消費者目線でのスタンス
b.リコールの全米対応
c.エアバッグ製品の安全性の明示
d.情報隠ぺいの調査
e.経営トップによる説明

a.消費者目線でのスタンス
まず気になるのが、タカタ社がどこまで消費者目線で対応できているか、ということだと考えます。言い換えれば、タカタ社の主張によって米国の消費者の不安が払しょくされているかどうかということですが、報道等を見る限り、残念ながら十分でないように見えます。タカタ社は公聴会でも様々なテストや解析を行い、その内容は各自動車会社やNHTSAと共有していると述べていますが、同時に一般にも取組内容やその進捗状況等を公開することも必要だと考えます。米国内で社会問題化している以上、社会に向けた対応をしなければならないと考えます。

b.リコールの全米対応
NHTSAのリコール拡大要求に対してどう対応するのかが直近の課題ですが、受け入れざるを得ないと考えます。本来ならばNHTSAの命令前に対応すべきであり、タイミングを逃した感がありますが、今からでも遅くないと思います。もちろん、上述した通りタカタ社が供給する交換部品には限りがあるので、高温多湿地域の車両を優先する、互換性の確認された他社インフレータも交換部品に含める、等の対応も必要と考えます。

c.エアバッグ製品の安全性の明示
リコール対象以外のエアバッグ製品、及びリコールの交換用エアバッグ製品の安全性を明確に立証することが必要です。それには、リコールしたエアバッグの問題点を明確にし、改善に向けた具体的な対策を明示しなければならないと考えます。これには、各工場の製造工程の見直しと改善も含みます。
2008年に最初のリコールを始めてから6年が経過した現在、追加のリコールが続いていることから、今後も発生しうる消費者が考えていてもおかしくない状況です。また、今後自動車を購入する消費者がタカタ社のエアバッグ装備車両を敬遠することも起こり得ます。こうなると、自動車会社もタカタ社の製品を継続して使用することは難しい状況になります。その前に手を打たないと、タカタ社製品が駆逐されることにもなりかねません。

d.情報隠ぺいの調査
情報隠ぺいの調査についても進める必要があると考えます。もし公聴会で述べた2005年以前に不具合等が認識された事実が確認されたのであれば、直ちに公表すると同時に、対応策を発表する必要があると考えます。

e.経営トップによる説明
上記のリコール対応と安全性の明示については、早急に方針を確定し、会長(CEO)または社長(COO)が文書だけでなく、公開の場で発表すべきだと考えます。少なくとも方針とアクションプランを決定し、断固たる意思でやり抜くことをアピールする場を設ける必要があります。問題の収束に向けた前向きな発表を行うことで、沈静化を図ることが重要と考えます。

最後に

危機管理については、どこでどのように始まるかは予測ができず、かつ走りながら対策を立案し、実行していかなければなりません。非常に難しい事案ではありますが、過去の様々な事例を踏まえ、自社に適合するガイドラインを作成することで、少なくともパニックに陥らずに対処することも可能ならしめます。危機管理計画やガイドラインを作成している企業は多いと思いますが、今一度内容を確認し、必要に応じてリフレッシュしてはいかがでしょうか。

上記内容に関するご相談やお問い合わせについては、「お問い合せ」のページからご連絡ください。

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