概要
感染症が流行すると、企業に所属する従業員にも感染者が発生します。その感染症が蔓延すると、感染する従業員は増加し続け、通常の事業活動のレベルを維持することが困難になる可能性があります。
また、海外から生命を脅かす危険な感染症が国内に持ち込まれると、感染すること自体が大きなリスクのため、感染防止の活動に伴い事業活動に大きな制約が発生することもあります。
感染者が急速に増加すると、日常の事業活動レベルを維持することができず、最悪事業停止に追い込まれる可能性もあります。
一般に事業活動が停止する可能性のある事象に対して事業活動計画(BCP)を策定し、備えておくものですが、多くの企業が策定するBCPは地震等、自然災害に対応したものであることが多いと考えられます。
しかし、自然災害と感染症はその発生状況や被害内容等、性格の異なるものであり、自然災害用のBCPをそのまま感染症に適用することは難しいものです。
特に感染症に対しては、その特性に応じたBCPをあらかじめ策定しておくことで、場当たり的な対応による混乱を避けるとともに、感染症の流行度合いに応じた業務の継続と復旧が可能になるものと考えております。
感染症向けBCPの特徴
現在、多くの企業で策定されている地震等の自然災害では施設等の物理的な破壊と人的被害が同時に発生しますが、感染症では主に人的被害が発生します。しかし、被害が発生するタイミングは、自然災害では発災時ですが、感染症は時間経過とともに増加していきます。そのため、何の対応も行わないと、いつの間にか出社可能な従業員がいなくなる、ということにもなりかねません。
また、自然災害向けBCPは事業停止状態から、短期間での復旧を目指すものですが、感染症向けBCPは最低限の業務レベルを維持するため、時には敢えて稼働レベルを落とさなければならない局面も起こりうるものであり、その期間も長期間になる可能性があります。
加えて、自然災害向けBCPの直接的な被害は災害発生地域周辺であり、代替地での事業継続というオプションも可能ですが、感染症は全国、または全世界に蔓延するため、代替地という考え方自体が成り立たない、「逃げ場がない」状態に追い込まれます。
感染症向けBCPの概要
感染症向けBCPは全体を通じて、「従業員の生命や安全を守る」という観点が重要です。
社内で感染者が確認されていない状況においては、感染者をオフィス内に入れないための「水際対策」、従業員の感染を予防する「感染防止策」を行うことになります。
しかし、感染症が拡大し、従業員にも感染者が発生した場合は、社内での感染を拡大させないようにするとともに、増加する感染者の動向に対応した部門・拠点内での業務縮小を検討します。
それでも感染症の流行が止まらず、通常の事業活動を行うことが困難になりつつある場合には、稼働可能な従業員を重要業務に集中させるとともに、交代制などで健常者を確保しつつ、最低限の業務を遂行する緊急時体制に移行します。
感染症に対する治療法や特効薬、ワクチン等の開発により流行が収束しつつあり、安全が確保された段階で徐々に通常の業務レベルに戻していきます。
各段階での移行の判断は政府や専門機関の発表、社会全体の状況、他社動向などを踏まえ、臨機応変に対応していくことが重要です。