2015/06/23

平成27年6月4日に、経済産業省が毎年取り纏めている「情報処理実態調査」の平成26年調査結果が発表されました。その中のトピックの一つとして、新しいビジネスモデルの創出やビジネス領域の拡大について、ITを活用している企業がおよそ2割に過ぎないことが報告されました。
経済産業省はここ最近、企業の収益拡大や事業革新等のために積極的なIT投資やIT活用を実施する「攻めのIT経営」を促進させようとしていますが、現時点ではまだ十分とは言えないようです。
一方で、経営におけるITの役割が大きくなるにつれて、経営とITとを結びつけるCIO(Chief Information Officer、情報担当役員)の重要性や期待が大きくなった時期がありましたが、ここ最近は、CIOに関する話題が少なくなってきた感があります。
今回の調査結果である「攻めのIT経営」が普及していない要因は幾つか存在すると考えられますが、今回は企業を成長させるうえでのCIOの役割や求められる要件について確認していきます。

CIOに関する「情報処理実態調査」平成26年調査結果の概要

それでは、「情報処理実態調査」の平成26年度調査結果のうち、CIOに関する部分をピックアップして確認していきます。
まず、CIOの設置状況ですが、専任または兼任のCIOが設置されている企業は全体の3割弱に過ぎず、しかもここ数年は減少傾向が進んでいます。経年的に同一の企業が回答している訳ではありませんが、CIO未設置企業の割合が増加するということは、CIO職を廃止している企業が少なからず存在すると考えられます。また、専任のCIOについては割合が大きく変動していないことが確認できます。
CIO設置状況
これを従業員規模、売上規模でそれぞれ確認すると、中小企業よりは大企業、売り上げの小さい企業よりは大きい企業の方がCIOの設置割合が高い傾向にあります。特に売上規模で比較した場合は、2倍以上の開きがあることが確認できます。
CIO設置状況(規模別/売上別)
以上から、多くの企業がCIOを設置していないのですが、その理由について確認したところ、そもそも「必要ない」と回答した企業の割合が全体の半数近くになっており、こちらも年々増加傾向にあることが分かります。
CIOを設置しない理由
こちらについても、従業員規模、売上規模でそれぞれ確認すると、中小企業や売り上げの小さい企業の方がCIOの必要性を感じていないことが分かります。その中には、人材不足、スキル不足をカバーするために外部の専門家を活用することで対応しているケースも見られます。
CIOを設置しない理由(規模別/売上別)
CIO設置企業について、CIOに課せられた役割を確認したところ、昨今の時勢からか、「セキュリティ管理」「リスク管理」「コンプライアンス強化」に関する役割の比率が高い結果が出ました。また、従来からIT活用に求められる「業務改革」「コスト削減」「IT投資効果の最大化」に関する役割も高い結果でした。一方で、経済産業省が促進する「攻めのIT経営」に関する役割はまだ低い状況でした。
CIOの役割
最後に、CIOの設置状況とIT投資効果について、その関連性を確認したところ、全てのIT投資効果項目に関して、「CIO未設置」よりも「CIOがいる」企業、「CIO兼任者」よりも「CIO専任者」の企業の方が、IT投資に対する効果があったという結果になっています。特に、「攻めのIT経営」と関連する「収益改善」、「顧客満足度の向上」に関しては、CIO専任者のいる企業は他と比べて15%以上高い数値を示しています。
CIO設置状況とIT投資効果
先に提示したCIO設置状況と売り上げ規模の関係性と併せて見ると、企業のパフォーマンスとCIO設置状況に何らかの相関性があるように感じます。

CIOの役割とは

企業内外における情報化の進展、インターネットの普及、ERPをはじめとした全社統合システムの導入、等の環境変化を背景に、経営戦略を実現するために全社の情報システムや情報基盤を統括する役職として、CIOが設置され始めたのは1980~90年代でした。CIOの役割を表現するために用いられたのが、「経営とITとの橋渡し」という言葉でした。つまり、経営戦略で設定した目標を実現するための様々な施策を実現するため、経営ツールであるITを活用するための戦略を策定し、これをマネジメントすることがCIOの役割でした。
当初ITに期待されていたのは、日常の事務処理をシステム化することによる効率性の向上やコスト削減でした。その後、事務処理で蓄積されたデータを情報系システムで活用するようになり、また、電子メールやSNSなどのコミュニケーション手段としてのIT化が進展すると、経営戦略とIT戦略の関係が単なる主従関係から、相互依存関係に変化してきました。つまり、ITの観点から業務変革や新規事業の創造を促す仕組みを提言し、経営戦略に反映させるような動きが期待されるようになっています。そのため、近年ではCIOを改革担当役員(Chief Innovation Officer)と呼ぶ場合もあります。
経営戦略とIT戦略
これに伴って、CIOの役割も拡大してきました。毎日の様に変化する技術動向をトレースし、必要に応じて取捨選択した上でIT戦略を立案し、実行することに変わりはありませんが、その内容は経営戦略とより密接に関わるようになってきており、環境変化のスピードにも追いつかなければいけません。これに加えて、IT技術が進化するとともに、情報セキュリティの確保、社内ナレッジの利活用、コンプライアンス対応、といった、新たな領域やデジタル化の要素を追加した既存領域を担当する責任者としての役割も追加されています。
また、別の側面として、企業内の多くの活動にITが関連することから、他の経営陣や様々なステークホルダーに対する説明責任も要求されるようになってきています。
さらに、大規模なプロジェクトが動き始めたら、CIOはプロジェクト責任者として実施内容を把握して統括管理するとともに、関係する事業部門との調整を行い、経営陣に対するレポートを行わなければなりません。

CIOはIT部門長の延長ではない

上記に述べた役割を果たすには、CIOだけで実行することは難しく、IT部門を始めとする様々な支援が必須です。一番の補佐役はIT部門長になると考えられます(兼任していなければ、ですが)。そしてIT部門長は将来的にはCIOに就任すると考える人も多いでしょう。
一般にIT部門長はIT部門の中でキャリアを積んでいく中で、技術的な知識やプロジェクト管理に関する経験が豊富だと考えられます。しかし、それだけで上記に提示した、CIOに求められる役割を担うことができるでしょうか。
CIOは担当役員であることから、必然的に経営に関与しなければならず、経営に基づく判断を求められます。そのため、経営管理に関する知識や経験が不可欠です。IT戦略を策定する際には、技術的観点だけでなく、経営的観点も含める必要があります。同時に、自社の置かれている事業環境や業界知識が必要でしょう。最低限、自社の事業内容や業務プロセスは理解する必要があります。もちろん、ITについても、毎日の様に発表される新技術やコンセプトをある程度理解できることが必要です。それ以外にも、他者に対する説明責任を果たすためのコミュニケーション能力や統合的なリスク管理能力も求められます。
こうした知識・スキルや経験は、IT部門の中にいるだけでは獲得することが難しいものです。それ故に、CIOがIT部門長の延長にあるものではないことを明確に示しています。そしてこのことが、冒頭に提示した経済産業省による調査結果、すなわち、

  • CIO設置企業は全体の3割弱に過ぎない
  • CIO専任者に限れば、全体の3%程度でしかない
  • CIOを設置しない理由として、「必要ない」とした企業の割合が全体の半数近くを占める

の理由だと考えられます。
CIOとして経営に携わるのであれば、技術的な知識よりも経営や事業に関する知識がより求められるため、そのスキルを有する役員の誰かがCIOを兼任する、または敢えてCIOを設置することはしないことにし、IT部門長などが技術面での支援を行うという図式になっていると考えられます。昨今のクラウド化などは、事業部門に対して技術面でのハードルを低くする方向に働くでしょう。そうなると、今後もこうした状況は続くことになるのではないでしょうか。
今後、「攻めの経営」を担うCIOを育成していくには、IT部門担当者にもそのキャリアにふさわしい経営知識や業務知識を身に着けてもらう必要があります。ジョブローテーションやキャリアパスについて考えなければならないでしょう。逆に、事業部門の担当者がIT部門に異動してキャリアを積むという道もあると考えます。
とはいえ、人材の育成には長い時間が必要です。そのため、現状の体制でITの利活用をイノベーションにつなげることが難しいと考える企業も多いでしょう。調査結果にあるように、特に中小企業等では外部の専門家を活用してCIO機能をカバーするような動きが見られます。このことが、企業においてよりITを活用した経営を行うための解決策の一つになりうるのではないでしょうか。
あくまでも外部の者なので、最終的なジャッジは社内の然るべき人間が行わなくてはなりませんが(以前の仕事で、クライアントの相応の地位の方から「決めて下さい」と言われたときは困りましたが)、特にIT部門が日常の業務に追われがちで余裕が無い場合、外部の専門家にCIO機能の一部を対応させることは選択肢の一つとして有効だと考えます。また、その外部専門家に自社のIT担当者をサポートさせることで、そのIT担当者へのスキル移転も可能となり、将来の企業を担う人材にもなり得るのでは、と考えます。

参考
経済産業省:情報処理実態調査 平成26年調査関係資料

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