前回までの内容はこちら
―――>「危機管理マニュアル策定のポイント(1)-概観
―――>「危機管理マニュアル策定のポイント(2)-緊急時体制の役割等
―――>「危機管理マニュアル策定のポイント(3)-緊急時体制の構成等
―――>「危機管理マニュアル策定のポイント(4)-初動対応
―――>「危機管理マニュアル策定のポイント(5)-情報発信

今回は危機管理マニュアルを構成する要素のうち、「マネジメント活動」に関する検討ポイントを確認します。

平常時のマネジメント活動

危機管理マニュアル策定のポイント(2)-緊急時体制の役割等」で触れた通り、緊急時体制は平時でも活動する必要があります。平常時でも情報収集に努め、緊急事態の兆候があれば適切に対処し、エスカレーションすることを防ぐのはもちろんですが、これにも増して重要なことは、策定した危機管理マニュアルが陳腐化しない様、定期的に見直し、その時代に適応した考え方やテクノロジー、あるいは制度改正等に対応していくこと、そして組織内部に危機管理に関する意識を醸成するため、研修や訓練を企画し、実施することです。こうした危機管理マニュアルを作成したことに満足してしまい、その後のフォローや改訂も行われないまま、キャビネの片隅に置かれたままになっている企業や組織は意外と数多くあります。こうした取り組みはイベント的なものではなく、継続して活動していくことが重要なのです。

危機管理マニュアルを改善する必要性

危機管理マニュアルについては作成時点で完璧なものができているとは限りません。また、時間の経過と共に様々な変更要因が発生し、実態と整合しない箇所が発生する可能性もあります。そのため、定期的に見直し作業を行い、改善していくことが必要となります。

危機管理マニュアルを変更する要因は、組織内部に起因する場合と、組織外の事象に由来する場合があります。企業や組織の内部に起因する要因は、以下の通りです。

・組織改変等
社内の組織改変や人事異動に伴い、緊急時体制の様々な役割を所管する部門が変更となる場合、あるいは担当者が異動して新たな担当者が任命される場合、その変更内容を危機管理マニュアルに反映させる必要があります。

・研修や訓練の結果
危機管理に関する研修の理解度を受講者に確認した結果や、訓練実施後の評価に基づいて、危機管理マニュアルの内容や表現を改善することが求められることもあります。

・業務改善、事業改編、等
業務改善や事業改編に伴い、リスク評価を再実施した場合の結果をマニュアルに反映させる必要があります。また、所管する部門、担当者、連絡先等の変更があれば、その内容を反映します。

一方、組織外の事象に由来する要因は、以下の通りです。

制度改正
事業や危機管理に関わる様々なレベルでの制度改正が行われた場合、現状の危機管理マニュアルと照合し、何らかの影響が生じる場合は新制度に適合する内容に改変する必要があります。

関連する外部組織の変化
取引先や通信キャリア、利用サービス等のビジネスパートナーが変更になる場合や、ビジネスパートナーは変わらなくても、連絡先や担当者が変わる場合は、その内容を危機管理マニュアルに反映させます。

外部情報の評価
危機管理に関する研究の結果や新しい理論の発表、あるいは実際に発生した事例等を評価した結果、自社の危機管理マニュアルに反映させるべき内容がある場合は、適宜反映させます。

技術革新
拠点間を連携する通信技術、情報を整理し取り纏めるツール、あるいは情報発信用のサービス等、危機管理マニュアルでの実施内容に関連して新しい技術やサービス提供が行われた場合には、関係する部分を更新する必要があります。
危機管理マニュアルの改善要因

危機管理マニュアルの改善プロセス

危機管理マニュアルを改善する作業は年1回等の定期的なサイクルで実施されるべきです。改善プロセスは一般的なPDCAのマネジメントサイクルに則って実施されます。
ただし、緊急を要する内容等については、定期的な作業に依らず、随時改善作業を実施することも必要です。
危機管理マニュアルの改善プロセス

危機管理に関する研修、訓練

緊急事態が発生した場合に初めて危機管理マニュアルを確認する様では、定められた内容に沿って活動することは困難です。そのため、平時から危機管理に対する意識を高め、その内容を習熟する必要があります。定期的な研修を実施することによって危機管理に対する知識を習得し、危機管理に関する意識を醸成させることができます。また、実践的な訓練を行うことで、訓練参加者に対して緊急時の対応能力を向上させることが可能になるとともに、危機管理マニュアルそのものに対する問題点が表面化し、マニュアルの改訂に寄与することができます。

危機管理に関する研修や訓練の方針は、緊急事態が発生した際に、混乱なく適切な対応を行う担当者や社員を育成することであります。この方針の下で、研修や訓練を行う目的が定義されます。その目的として考えられるのは、以下の通りです。

1.緊急時の対応等における基礎的な知識の習得
緊急事態が発生した際に場当たり的な対応を行わない様、従業員等が基本的な知識を習得することが重要です。また、一般的な理論を踏まえた、自社の実務内容に合わせた対応についても習得させることで、迅速かつ適切な対応ができるようになります。

2.社員の危機管理に対する共通認識の醸成
意思決定を行う管理者から現場の担当者まで、それぞれの立場に応じた危機管理に対する一貫した知識を共有させることが必要です。また、訓練を行うことで、個々の従業員が理解する内容を行動に移す中で、相互の認識の差異を調整することが可能となります。その結果、個々の従業員が自分の役割を明確に理解するようになることで、二次災害を引き起こすような勝手な行動を慎み、早期復旧に向けた全体最適な対応ができるようになります。

3.研修や訓練の課程で認識された現行対策の課題抽出と改善
研修の中で行われる実習やディスカッションの中で提示された意見等、あるいは訓練の過程で生じた実態との不整合や非効率性といった事象を吸い上げ、その内容について精査を行うことで、より実態に即した改善策を導出することも可能となります。
危機管理に関する研修・訓練の目的

危機管理訓練の実施

昨今、危機管理の分野においても訓練実施の重要性が注目されています。その理由として、実際の危機的な状況が発生した様々な事例を見ても、多くの場合は適切に事が運んでいたとは言い難く、時には担当者や責任者の個人的な感情や思いが前面に出てしまい、更に悪い状況に発展することも少なくないからです。
一方で、シナリオに沿った訓練を行うことで効果はあるのか、という意見を頂くこともあります。例えば、学生の頃に部活動を行った経験がある方も多いと思いますが、部活動においては基本的な動作の反復練習に多くの時間が割かれています。しかし、実戦ではその様な基本的な動作を実施する局面はほとんどありません。それでも基本的な動作を繰り返し行うのは、その基本動作が身についていないと、様々な事象に対応した動作ができないからです。危機管理の訓練も同じことで、基本的な対処法を身に着けることで、様々な危機的状況に応用できる能力を身に着けることが可能となるからです。

危機管理訓練は、緊急事態が発生しても迅速かつ適切に対応できるよう、訓練参加者に習得させるとともに、策定した危機管理マニュアルの内容を実際に行うことで、机上では確認できなかった問題点をあぶり出し、改善すべき内容をマニュアルに反映させることが重要です。そのためには参加者は漠然とした思いではなく、自分の役割を明確に認識した上で設定したゴールに向かって対応するとともに、客観的な評価を行う仕組みを整備することが重要となります。一般的な訓練実施プロセスは以下の様に考えられます。
危機管理訓練のプロセス

最後に

以上、6回に渡って危機管理マニュアル策定におけるポイントについて確認してきました。もちろん、これまでに述べてきたポイントを網羅するだけでは足りない部分もあります。また、事業内容や事業規模に応じて様々なカスタマイズが必要になります。そのため、危機管理マニュアルはイベント的に作成しただけでは完成する訳ではなく、むしろ第1版が策定された時点がスタートになります。今回、提示した内容が危機管理に関係する方々の作業の助けになれば幸いです。

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