大塚家具の内紛は、先月の株主総会で大塚久美子社長が続投することで、一応の決着を見ました。この件に関しては、「お家騒動」「父娘の骨肉の争い」というワイドショー的な取り上げられ方が多かったことは記憶に新しいところです。この騒動の中で、社長側は「経営の透明性」について強調していました。ここでは、社長側が主張していた「経営の透明性」について確認していきます。

大塚家具における「経営の透明性」の問題

大塚家具での経営の透明性の問題とは、大塚勝久会長の主導で投入された、多額の広告宣伝費等の施策に対して、施策の合理性や市場に向けた説明責任が行われなかったことによります。
大塚家具のホームページに掲載されている業績情報をまとめたのが、以下のグラフです。現在の大塚久美子社長が最初に社長に就任したのが2009年3月です。売上高、営業利益が下降したのもほぼ同時期ですが、これは2008年後半に始まったリーマンショックの影響もありますが、一方でライフスタイルの変化についていけなかったことにもあると思います。
大塚家具の売上高・営業利益・広告費
売上高は2009年度以降、550億円前後で安定しております。この間の営業利益は一度持ち直しますが、2014年度には再びマイナスになります。一方で、広告費は売上高と連動するような動きで30億円以上をキープしており、大塚久美子社長が一度解任された2014年度は約38億円を計上しております。
実は大塚家具の業績悪化後も粗利益率は55%前後で安定しております。一方で、広告費を含む販管費が抑えられていないので、結果として利益が出ない状態になっています。
この間、一度大塚久美子社長を解任していることから、社内の経営会議では会長派が優勢であったことが想定されますので、大塚勝久会長の唱えるチラシ広告戦略がずっと維持されてきたと考えられます。しかしながら、チラシ広告による効果が以前ほど期待できない中での広告費維持は対外的に説明をつけることは困難です。単純計算ですが、この期間の広告費を3割カットすれば毎年約10億円のコストが浮くので、少なくとも赤字業績になることは無かったかもしれません。

企業の成長に伴う「経営の透明性」の要求

大塚家具では、大塚勝久会長と大塚久美子社長の会社経営に対するスタンスの違いから問題化していることが特徴的だと考えられます。大塚勝久会長はいわゆるワンマン体制で、独断的な決定を行うことで、春日部市の家具屋を全国区の企業に育て上げてきたという自負があると思います。一方、大塚久美子社長は大手都市銀行で勤務した経験等から、いわゆる欧米流マネジメントプロセスやコーポレートガバナンスを確立するという考えが根底にあると思います。
大塚家具が成長している間は独断専行の経営に不透明な部分があっても大きな問題とはならないかもしれませんが、業績が悪化する中でのチラシ広告に対するこだわりが、今度は逆に対外的に不透明さを提示することにならないかという危機感から、今回の騒動になってしまったのだと考えられます。
大塚家具の様に短期間で急成長した企業には、こうした透明性の問題はいつでも起こりうる事象です。創業者は独断専行と言われようとひた向きに事業に向き合い、その規模を拡大していきます。その過程の中で、その企業の名前が世間に知られるようになり、時には全国区になることもあります。名前が知られるということは、その企業に対する注目度が高くなるということであり、中には投資判断を行うために財務状況を知りたいという要求も高まります。
しかしながら、いつまでも創業当時の気持ちで経営を行っていると、独断専行で進めてきたことが逆に不透明性となって映ることもあります。もちろん、事業に打ち込む姿勢は創業時の頃と同様で構いませんが、経営についてはコーポレートガバナンスを強化し、透明性を向上させ、説明責任を果たすことが次第に求められてきます。そうした外部からの要求を感じとり、より広い視野で経営を見直す姿勢も重要です。

企業が株式上場すると、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度、いわゆるJ-SOXが適用されます。私が監査法人に在籍していた時には様々な企業のITに関わる内部統制状況を監査してきました。監査した企業の中には短期間で急成長し、上場を実現した企業も含まれます。そうした企業のほとんどは、内部統制に関しては課題が多い状況でした。その様な状況を報告した際に意見交換を行うのですが、大きく意見は分かれます。一つは、やらなきゃいけないことだが、リソースが少ない中で急増する作業をこなすのが精一杯で、内部統制の整備に割く余裕が無い、という意見、もう一つは、今まで何の問題もなかったのだから、当面はこれで大丈夫、という意見です。上場したことにより、外部からの視線にも注意する必要性を意識していればがあれば話し合いもしやすかったのですが、残念ながらこれまで通りの取り組みで十分と考える方々に対しては苦労した記憶があります。

元々は不祥事の防止という意味合いが強かったコーポレートガバナンスの整備も、最近では企業の持続的成長と企業価値向上のために必要だという考えに変わっており、国の成長戦略でもコーポレートガバナンスの改革を進めることで、経営の透明性向上と成長力強化につなげようと考えられています。こうしたことも背景にあって、大塚家具では大塚久美子社長を支持する動きになったと考えられます。

今後の大塚家具について

最後に、大塚家具の今後についてですが、経営戦略についてはまだ明確でないところもあるようです。報道等では会員制をやめ、「気軽に入れる店作り」にしたいということで、IKEAやニトリに寄せていくかのような雰囲気ですが、中期経営計画を見ると、両社を低価格帯マーケットと位置付ける一方で、大塚家具は中・高価格帯に位置付けております。具体的にどう実現するかは今後の動向に注目していくことになります。
先ほど、大塚家具の業績悪化は、売上低下の一方で、販管費が抑えられていないことを指摘しましたが、販管費の中でもう一つ懸念材料があります。それは人件費です。人件費に関しては右肩上がりの状態が続いております。大塚家具の社員の状況は十分にリサーチできていないので、想像ベースの話になりますが、恐らくは大塚勝久会長が創業以来共に頑張ってきた従業員を継続して雇用し続けたことによる影響ではないでしょうか。大塚勝久会長の会見時において、その背後に古参社員が整列した姿はその表れだと思います。また、会員制により店舗をエスコートするスタッフが膨らんでいることに由来するのかもしれません。
大塚家具の売上高・人件費
売上がここ数年の状況を維持できるのであれば、当面は広告費を抑制することで利益を出すことは可能であり、その間に新しい経営戦略に基づいた売り上げ増が実現すればよいのですが、状況によっては従業員に対しても何らかの対応が必要になるかもしれません。それは、単純に従業員を削減することでスリム化を図っていくのかもしれませんし、これまでとは異なる新サービスを開発し、配置転換を行うことで対応するかもしれません。そのような局面になった場合の対応は社長の手腕にかかってくるでしょうし、その際には長年勝久氏を支えてきた古参社員の処遇も考慮しないと、また内紛劇が再燃する可能性もあります。

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