作成日:2015/7/29

国内大手電機会社である東芝の不適切(?)会計問題について、様々な報道や評論が行われています。先日の第三者委員会の調査報告により、歴代3社長の下で2009年3月期から14年4~12月期まで計1,562億円もの利益操作が行われたこと、それは経営トップが関与して組織的に行われたことが明らかにされました。
この第三者委員会の報告を受けて、田中久雄社長、前社長の佐々木則夫副会長、前々社長の西田厚聡相談役のほか、取締役5名が責任を取って辞任し、暫定的に室町政志会長が社長を兼任することが発表されました。また、記者会見で田中社長は「こうした事態を生じさせたことを厳粛に受け止め、株主などステークホルダーに心よりおわびする」と陳謝する一方で、「私自身が不適切な会計をしろという直接的な指示をしたという認識はない」という発言もありました。
今回の事件では、「チャレンジ」と呼ばれる上層部から現場に対する過大な目標達成要求が問題の一因であると指摘されています。(田中社長は「必達目標」と呼んでいた、と発言していましたが、こちらの言葉の方が強いプレッシャーを与えている気がするのは私だけでしょうか?)果たして、上層部からのプレッシャーだけで不適切な会計処理を行うものでしょうか。
今回は不適切会計を誘引した東芝内部の問題点と、今後の改善の方向性について確認します。

不正のトライアングル再考

以前、内部不正が発生するメカニズムとして、「不正のトライアングル」という考え方を紹介したことがあります。(詳細はこちらを確認ください。)内部不正は当事者が「動機・プレッシャー」を抱え、「機会」を認識し、「正当化」の3要素が成立した場合に発生するという考えです。
不正のトライアングル
今回の東芝の不適切会計は組織的に行われていたことから、このような単純なトライアングルではなく、それぞれの立場の従業員におけるトライアングルが重層的な構造になっていたと考えられます。
東芝の「不正のトライアングル」
まず、「動機・プレッシャー」について、経営層において決算期における経営目標が達成できないことは、会社、及び経営層自体の対外的な評価につながります。また、報道にあるように、会長、副会長、社長の派閥争いも一因だと考えられます。この経営層のプレッシャーは社内カンパニーに対して「チャレンジ」と称する厳しい利益目標を科すことになり、カンパニー内の各ビジネスユニットに対する厳しいノルマとして反映されたと考えられます。そしてこの目標達成ができなかった場合、社内での地位や出世等に影響することが想定されるため、何が何でも利益目標を達成しなければならないという強いプレッシャーになったと考えられます。
そして、この経営層における「動機・プレッシャー」は「機会」に影響します。すなわち、経営層に対する内部統制機能に対してプレッシャーをかけるとともに、目先の利益目標を達成するため、会計処理の適切性にも目をつぶる、または軽視することになります。また、各カンパニーに対しても内部統制機能を果たすことなく、逆に不適切な会計処理の実施を容認することとなります。結果として、カンパニー内の各ビジネスユニットに対しても内部統制が機能することなく、不適切な会計処理が蔓延することとなります。
最後に「正当化」ですが、これは利益至上主義と上司に逆らえないという企業風土によるところが大きいと考えます。つまり、「チャレンジ」やノルマに設定された目先の利益目標を達成することが最優先されるという考え方、そして本来行うべき会計処理を行う際に上司の承認が必要とされるという企業風土が間隔を麻痺させていたのだと考えられます。また、社内で不適切な会計処理が横行しており、「みんなやっていることだから」という空気になっていたことも一因ではないかと考えます。

東芝のコーポレートガバナンス体制の機能不全

今回の不適切会計問題が発覚するまで、東芝はコーポレートガバナンスにおいて優れた企業だと見なされ、お手本と考えられてきました。しかし、第三者委員会の報告から、東芝のコーポレートガバナンス体制が見かけだけであり、実効性を伴わないことが明らかになってきました。下図は東芝のホームページに掲載されているコーポレートガバナンスの体制ですが、第三者委員会報告書では、監査・監督の機能(点線矢印)が機能していないことが記述されています。詳細は第三者委員会報告書を確認ください。
東芝のコーポレートガバナンス

第三者委員会報告書の改善案に関する考察

それでは、東芝は今後どのように立て直しを図ればいいのでしょうか。第三者委員会報告書で提言されている再発防止策をもとに確認します。
まず、直接的な原因の除去ということで、6項目の改善策が記述されています。
経営陣の責任という点では、取締役8名が辞任することで対応した形になっています。しかしながら、一連の不適切会計処理に関与していないとされる室町新社長以外の社内取締役は研究開発や人事、法務の出身であり、事業活動の経験者が僅少になっています。もちろん、若手の抜擢という選択肢はありますが、カンパニー長などの幹部職員にも不適切会計処理に関与した者は多数存在する可能性もあり、その関与度に応じて人事的な処罰の対象となります。そのため、しばらくは社内生え抜きの役員候補が少なくなる恐れがあります。
幹部職員の人事対応はまた、事業の最前線で活躍する人材を失いかねないことにもつながりかねません。だからと言って、処罰を軽減したり、躊躇したりするようなことがあれば、東芝社内の意識改革は遠い未来となってしまう可能性があります。場合によっては、過去の人事評価を再確認し、一連の不適切会計処理に反発したり、チャレンジを達成できなかったりして冷遇されている人材の再発掘等も視野に入れた方が良いかもしれません。
また、いわゆる「チャレンジ」の廃止については、目標設定による業績管理自体を否定するのではなく、実力以上の目標の必達を強要する管理手法を改めるということです。欧米流のマネジメント手法が浸透する中で、様々な指標による目標管理は各企業で行われています。問題は、単純に指標の数値ばかりに注目すると、今回の様に手段を選ばずに数値目標の達成を追求することにもなりかねません。業績管理のフレームワークを構築する際に注意しなければならないことの一つが、指標の数値そのものが目的とならないような体系の構築にあります。また、目標の未達が必罰ではなく、客観的な原因分析を行うプロセスを追加し、改善案を策定して実施する「チャレンジ」を行うプロセスを構築することも重要だと考えます。
今回の問題の原因として、「上司の意向に逆らうことができない」企業風土が指摘されており、これを改革する必要が指摘されています。誤解されている方もいるかもしれませんが、どの企業でも大かれ少なかれ、「上司の意向に逆らわない」という意識は存在するものです。また、企業が階層的な組織構造である以上、上司の意向に逆らうことは基本的に許され難いことです。ただ、今回の様に無謀な目標の達成を強要されたり、不適切行為を指示されたりした場合は、内部通報制度を始めとした環境の構築は必要だと考えます。これに関連して、コンプライアンスを重視するよう意識改革を行うべきと提言されていますが、これまで組織ぐるみで不適切会計を行ってきた組織において直ちに意識改革が行われるとは考えにくく、当面は後述の社内チェック機能を整備することで、徐々に意識付けをしていかなければならないのではと考えます。逆に、コンプライアンス重視に捉われる余り、東芝の本来持つ行動力が損なわれることにならないか危惧しております。

次に、間接的な原因の除去ということで、ハード面として4項目、ソフト面として2項目の提言が行われています。
まず、コーポレートガバナンス体制を機能させるため、現在の経営監査部に代わる、独立性の高い内部監査部門を構築するとともに、監査委員会についても機能強化を図ることが必要です。また、各カンパニーの経理部やコーポレートの財務部についても、十分なけん制機能が働くよう成立させることも重要です。さらに、経理部や内部監査部門のメンバーは、社内のプレッシャーの影響が低い外部の専門家を雇用して加えることも視野に入れるべきでしょう。内部監査部門や監査委員会は通常、取締役会に従属しますが、当面は外部取締役に従属させ、社内から昇格した役員がプレッシャーをかけにくい体制にせざるを得ないのでは、と考えます。
そのため、当面はチェック機能としての社外取締役の果たす役割が非常に大きくならざるを得ないと考えます。そのためには増員も必要だとは思いますが、関与度についても上げていかなくてはならないと考えます。

最後に、外部の会計監査人について、第三者委員会の報告書では主たる調査対象ではないということで意見が限定されています。報告書に記述されているように、組織ぐるみの不適切行為を外部の会計監査人が発見し、指摘することは困難かもしれません。しかし、不可能ではないはずです。調査方法を見ても、際立って特別なことを行ったという印象がありません。報告書の末尾に添付されている「PC事業月別売上高・営業利益推移(2005年4月~2015年3月)」を見ると、不適切会計処理が始まったとされる2009年3月期以降(2008年4月以降)、売上はランダムな線を描く一方で、営業利益は四半期毎の決算月に突然跳ね上がり、翌月に急降下するというトレンドが見られ始め、年を追うごとに激しい動きになっています。特に2012年9月~2014年12月までの四半期決算月では、営業利益が売上高を上回る現象が続いています。これだけを見ても、通常以外の何かの力が働いていることを疑うきっかけになるのではないでしょうか。
東芝「PC事業月別売上高・営業利益推移」

日本のリーディングカンパニーであり、かつコーポレートガバナンスの優等生であったとされる東芝が起こした今回の問題は、東芝だけでなく、日本の企業全体、あるいは会計監査制度を含むメカニズム全体に対して疑いの目を向けられることにもなりかねません。今後刑事訴訟に発展するかは不明確なのですが、既に米国では個人投資家が損害賠償を求めて提訴しており、今後大規模な集団訴訟に発展する可能性もあります。
東芝としては取締役の大量辞任と新たに設置される経営刷新委員会の活動によって幕を引きたいと考えているかもしれません。また、一部には悪質な損失隠しではないから、といった意見も聞こえています。しかし、対外的に公開する数字を誤魔化したのは事実なので、少なくとも、日本が不適切会計を行った企業に対して寛容でないことを示すため、一定期間の政府調達に対する資格停止等、何らかのペナルティを与えるべきではないでしょうか。
東芝の自浄努力にも期待したいですが、外からの目で東芝に経営改善を促すよう働きかけることも重要だと考えております。

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