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今回は危機管理マニュアルを構成する要素のうち、「緊急時体制」の構成に関する検討ポイントを確認します。

緊急時体制の構成

緊急時体制については、招集されたメンバー全員が状況を確認し合い、対策を検討しているようでは、メンバーの役割が不明確なため、効率的な行動が取れず、対策の決定に時間がかかりがちになります。あるいは、全員が同様の行動をすることで必要とされる作業事項に漏れが発生することもあります。
緊急時には迅速な対応が求められるため、体制内で機能分化を行い、各自が付与された役割に応じて効率的に活動することが求められます。これによって個々人の役割が予め設定されているため、必要な作業項目を漏れなく効率的に実施可能となります。また、必然的に意思決定に関わるメンバーも限定されてくるので、迅速な対応が可能となります。
先回に提示した「緊急時体制の役割」に基づいた緊急時体制の構成の例は、以下の通りです。
緊急時体制イメージ

上図に提示した緊急時体制を構成する各機能の概要は、以下の通りです。

マネジメント(責任者)
緊急事態の対応策について最終的な意思決定を行います。また、緊急時体制の外にある経営層に対して報告や調整を実施し、社内で足並みを揃えるようにします。

対策立案
収集、集約された情報を分析し、具体的な対策を策定します。策定した施策は、担当者を決めた上で、指示を行います。また、収集された情報について公開、非公開等の区分を行います。

調査・分析
対策立案機能の指示に基づき、詳細な調査や分析を実施します。

情報収集・連絡
収集された情報を整理し、対策立案機能へ伝達します。また、対策立案機能からの指示内容を各担当に通知します。

広報
報道機関等に対する窓口となり、定時報告、取材対応、記者会見設定、等を行います。また、対策立案機能の指示による発表資料作成や報道内容に対する分析等を実施します。

渉外
流通チャネル、取引先業者、官公庁、業界団体等との対応を行います。また、その過程で収集された情報や調整結果、要望等について報告を行います。

被害者対応
緊急事態に起因する被害を被った企業や消費者への対応を行います。直接連絡する、あるいは往訪することによって状況を説明した上で被害状況を詳細に把握し、報告します。補償内容が決まれば、その内容に従って行動します。

顧客等対応
一般の顧客や消費者からの問合せ、苦情、情報提供、等の対応を実施します。伝達すべきコメントやスクリプトを策定した上で、顧客接点(営業所、コールセンター、等)にその内容を伝達、指示します。

事務局
緊急対策室内の庶務作業を行います。また、緊急対策室内部や社内各部門との調整、情報整理、等を行います。

以上の各機能には、日常活動において所管する部門から要員を配置することで、緊急時でも混乱することなくそれぞれのタスクを実施することができると考えます。例えば、事務局は総務部門、渉外は営業部門(特に法人営業)、顧客対応はカスタマーサポート部門、というようになります。
対策立案や情報収集・情報連絡の各機能については、社内の主要部門から要員を配置することで、様々な角度から情報を確認し、対策を検討できるような体制とするようにすべきです。

緊急時体制における構成員の代行者

緊急時体制であらかじめ指名された構成員が常に召集可能な状態であるとは限りません。大規模災害の場合は直接被災して構成員が怪我を負ったり、居住所が孤立したりするケースも考えられます。また、海外出張等で不在の場合もあり得ます。その場合は、その構成員の代行者に連絡を取り、代わりに参画して任務を遂行させるべきです。
代行者を選定する場合は、以下の様な基準で検討する必要があります。

1.同一部門、または類似の部門に所属していること。
上記の通り、各構成員は平時における所管部門から配置していることから、必要とされる業務上の知識をほぼ充足できる要因であることが望まれます。

2.一定レベル以上の職位であること
緊急時体制は各構成員がそれぞれの役割の中での意思決定を伴うことから、相応の職位であることが望ましいと考えられます。また、一定レベル以上の職位を有することは、危機に対応するマネジメント等のスキルを有すると考えられます。

3.緊急時体制に専任可能であること。
緊急時に通常業務と兼務で対応することは難しいので、部門の業務については別の担当者に任せることが可能な環境にあることが望まれます。

代行者については、組織の規模にも依存しますが、できれば1次代行者、2次代行者まで決めておきたいところです。その理由として、本来の構成員と合わせて3名が同時に召集不能となるケースは発生しにくいと考えられるからです。(単なる確率論ですが)また、緊急事態の内容によっては追加のサポートメンバーとして招集するためです。
なお、構成員や代行者については個人名ではなく、役職名等で指定することで、人事異動や退職等によるマニュアルの更新作業を回避することができます。

実際に代行者が任に当たるためには、明確な権限移譲ルールを定義することで、いざという時でも混乱なく対応することができます。権限移譲は明示的に実施される場合と、状況に応じて弾力的に対応する場合とが考えられます。
明示的に実施される場合は、本来の担当者が怪我を負ったり、出張や休暇で遠隔地にいたりする場合、本人の判断で危機管理活動に関する権限を代行者に委譲することを指示します。
状況に応じて権限移譲する場合は、本来の担当者が明らかに本社に参集できない状況にあると分かっている場合や、消息が不明で連絡がとれない場合に適用されます。この場合、事務局や代行者の判断で、速やかに代行者が担当者の職務を実施します。その後担当者が参集した際には、引継ぎの上、権限を復帰させます。
どちらのケースであれ、権限移譲が発生した場合は代行者や緊急時体制のメンバーに速やかに通知されなければなりません。
権限移譲イメージ

次回は「初動対応」に関する検討すべきポイントについて確認します。
―――>「危機管理マニュアル策定のポイント(4)-初動対応

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