作成日:2015/3/3
更新日:2016/10/11(NHTSAレポートへのリンクが外れたため、消去)

昨年、危機管理のケーススタディとして、米国におけるタカタ株式会社のエアバッグに由来する自動車リコール問題を取り上げました(こちらを参照ください)。その際に、以下の様な対応が必要では、という私見を提示しました。

  1. 消費者目線でのスタンス
  2. リコールの全米対応
  3. エアバッグ製品の安全性の明示
  4. 情報隠ぺいの調査
  5. 経営トップによる説明

そして先月末に大きな動きがありました。突然、米高速道路交通安全局(NHTSA)が「調査に非協力的」という理由で罰金を科され、さらに部品保全命令が出されました。
タカタ側は反発していますが、現時点でタカタから追加の情報開示がなく、原因特定もされておりません。
エアバッグ異常破裂の原因を究明し、一般ドライバーに安心感を与えるためにも、タカタとNHTSAとの連携は必要不可欠ですが、かえって両者の不信感が高まっている印象を受けます。

公聴会以降の経緯

昨年12月に米上下院で公聴会がありましたが、その後に起きた事象は以下の通りです。
(報道機関各社の報道内容をもとにデルタエッジコンサルタントで取り纏め)

時期
概要
2014年12月24日タカタ社長交代、会長が兼務へ
2015年1月18日米テキサス州でリコール対象のタカタ製エアバッグが異常破裂し、運転手が死亡
2015年1月24日ホンダが「アコード」新モデルのエアバッグに豊田合成製品を採用するとの報道
2015年1月30日英上院議員、NHTSAに調査の拡大を要請
2015年2月5日タカタ、第3四半期決算短信にて2015年3月期の連結純損益が310億円の赤字になる見通しを発表
(第2四半期決算短信では250億円の赤字)
2015年2月20日NHTSA、タカタ製エアバッグ問題に関して調査協力が不十分だとして1日あたり1万4000ドルの罰金を科す決定
2015年2月25日NHTSA、タカタに対してリコールで回収したエアバッグのインフレータを全品保管するよう命令
同時に、タカタに対する調査基準を「エンジニアリング分析」(engineering analysis)に格上げすることも発表
2015年2月26日自動車メーカー10社、タカタ製エアバッグ問題の原因究明に向けた第3者調査について、オービタルATKに依頼したことを発表

NHTSAのタカタに対する不信感

2月20日、25日の2つの発表を見ると、NHTSAのタカタに対する不信感が現れている印象を受けます。プレスリリースの中では、

  • defective airbags(欠陥のあるエアバッグ)
  • bad actors like Takata(タカタの様な悪者)
  • protecting the American public from these defective air bags(こうした欠陥のあるエアバッグからアメリカ国民を守るため)

といった強い表現が見られます。また、25日のインフレータ全品保管命令の内容として、

  • Takata is prohibited from destroying or damaging any inflators except as is necessary to conduct testing.(タカタは、テストを行う必要があるものを除き、すべてのインフレータを破壊したり、破損したりすることを禁じられた)
  • Takata is required to submit for NHTSA’s approval plans for gathering, storing and preserving inflators already removed through the recall process and inflators removed in the future, as well as written procedures for making inflators available to plaintiffs and automakers who request access.(タカタはリコールで取り外されたインフレータの収集/蓄積/保管計画、及びアクセスを要求した原告や自動車会社がインフレータを利用可能とする手順書を提出し、NHTSAの承認を得る必要がある)

というように、タカタが自社にとって不都合なインフレータを破棄している印象を与えかねない様な内容となっています。
タカタは回収したインフレータによる試験や分析を進めており、大量のデータをNHTSAと共有しているとしていますが、その内容は外部に公表されておりません。また現時点でインフレータ異常破裂の原因が特定されていないと想像されます。NHTSAの立場からすると、原因特定等、ドライバーの安心材料になる情報が含まれない実験データに対して満足できる訳がなく、その結果2月末の2つの声明につながったと考えられます。

タカタの今後は...

まず現時点で科されている1日あたり14,000ドルの罰金ですが、金額面ではあまり大きな問題とはならなさそうです。タカタの業績自体は好調で、第3四半期決算短信では2015年3月期末の業績予想における売上高が6200億円、営業利益が280億円となっており、いずれも前期より増加しております。最終的な連結純損益が310億円の赤字と予想されておりますが、これは3Q時点で500億円を超えるエアバッグ問題に関する特別損失を加算した数字です。仮に罰金が1年間続いたとしても全体で約500万ドル、日本円で6億円前後なので、吸収可能な数字だと考えられます。むしろ、罰金を科されたという事実が企業イメージを悪化させていると考えられます。
ただし、今後の進展によっては特別損失がもっと増加する可能性が高くなると考えられます。現在のリコール費用は各自動車会社が負担していますが、タカタ製エアバッグ自体の問題であることが明らかになった場合、このリコール費用はタカタに転嫁されるでしょう。リコール規模は既に1000万台を超えているので、数千億円規模になる可能性もあります。さらに、訴訟が発生した場合は損失が大きくなる可能性があります。
また、今季の業績は好調だとしても、中長期的にどうなるかは不透明です。タカタ製エアバッグの一番のユーザであるホンダが新車種に別会社の製品を使用するとの報道もあったように、今後自動車会社のタカタ離れが進む可能性があります。現在生産中の自動車に対するエアバッグ製品の乗り換えは難しいかもしれませんが、これから設計や生産が始まる自動車に関しては、タカタ製から他社製品への乗り換えが発生する可能性が高いと考えられます。これを受けて、競合であるダイセルやオートリブは生産増強の方向で動いているようです。一方で、タカタはリコール交換用のインフレータ生産で手一杯の様に感じます。
よって、タカタとしては一刻も早くエアバッグ異常破裂の原因を特定する必要があります。同時に、リコール対象以外のエアバッグ製品に関する安全性も示さなければならないでしょう。そこで始めて、NHTSAや自動車会社との関係改善が進んでいくと考えられます。
また、タカタが現在行っているとされる回収したインフレータの調査、外部に委託した火薬分析、工場の製造工程に関わる監査について、その状況や途中経過が一切公開されていません。経営トップからの直接の説明等もありません。ホームページのプレスリリースも昨年の公聴会以降、追加がありません。こうした情報公開についても改善する必要があると考えます。

参考

NHTSAプレスリリース(現在、参照できません)

  • February 20, 2015 U.S Transportation Secretary Foxx Calls on Congress to Authorize New Enforcement Tools for NHTSA and Levies Fine on Takata
  • February 25, 2015 U.S Transportation Secretary Foxx Announces Order to Preserve Defective Takata Air Bag Inflators for Ongoing Federal Investigation

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